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『なないろ』緋色編〜花火 最終話

 奏は夜空に咲く花火を仰いだ。 「……〜僕の胸ずっとある〜」  それは緋色が歌った部分と同じだが、オリジナルとは微妙に違う歌詞だった。 「奏……」 「あの撮影の時のキスシーン……すごく辛くて、それで発作起こしちゃったんだ」 「それって……」  奏はうんと頷いて、少し身を近づける。 「今日……オレ車で来たから、家までちゃんと送るよ」  砂の上についている奏の手に自分の手を重ねる。 「あのシーンとは違うキスをしよう」  さっきの突然のキスとは違う。  お互いに意志を持って、顔を近づける。  唇が重なりあって。  さっきよりもずっとずっと、深くて甘い口づけをした。  その時、最後の花火が夜空を飾った。 ★ ★  天城彼方は白い長方形の部屋の一辺全体が鏡になっている、その前に座っていた。 「奏兄ちゃん、ちゃんと緋色さんに会いに行ったのかなぁ」  スマホを見ながら、はぁと溜息を吐く。 「まさか、兄ちゃんと緋色さんが子どもの頃に会っていたとは」  同じ事務所の先輩ユニット『なないろ』は事務所の中でも大御所で、彼方にとっても雲の上の憧れの存在だ。 「おれなんかの顔も覚えてないだろうけど、まあ今回はそれが役に立ったわけだけどーー希空には口が裂けても言えない」  がしがしと頭を掻きたくなったがすんでのところで留まった。  彼方は鏡に映る、綺麗にセットされている髪を見た。 (これぐしゃぐしゃにしたらにめちゃ怒られる)  そう思った瞬間。  ドンドンドンッと苛立ったようなノックの音がした。 「なにやってんだ、時間だ。早く出て来い」 (うぉぉっ時間かーっっ) 「はい!」  彼方はテーブルの上にスマホ置いた。 (奏兄ちゃん、あとでちゃんと報告くれよ〜) 「聞いてんのか?! おーい!」 「聞いてますよ〜」  その日、新ユニット『Double (ダブル) Crown(クラウン)』が誕生した。         緋色編 花火  end
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