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そんなユニットデビューからひと月が経った。
幸か不幸か、まだ解散はしていない。
音楽番組。雑誌取材。情報番組出演・取材。その他諸々の仕事。
それから、レッスン。レッスン。レッスン。
何か仕事をこなすごとに罵詈雑言の嵐。
そして、この先の大仕事は、十二月に行われるサクラ・ドームでの『桜ノ森スターズ・オン・ステージ』。SAKUプロ所属のアイドルたちが総出で行なうライブだ。十二月二十四、二十五日というクリスマスにもろにぶつけてくる日程で毎年行われている。
どのユニットもソロも今からその一大イベントに向けての活動を開始している。
勿論Double Crownも例外ではない。
ユニットをミックスしてのプログラムもあるがそれは事務所が考えることとして、個々の曲目や演出はユニットで決めることになっている。勿論事前に案を出し上層部の許可を得るのだが。
これも頭を悩ます案件だ。
Double Crownの場合、口出し無用で煌が全面的に考案することになる。
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「めずらしい、オヒトリデスカ」
十五階桜ノ森スターズビルの十階。エレベーターを降りて最初の部屋に入る。
ナチュラルなオーク材感を出したリノリウム床、全面鏡張りでレッスンバーが備えられている。広い部屋に何組がダンス練習をしたり、座り込んで話し合ったりしている。
ビルの十階から十三階まではこうしたレッスン場になっている。この部屋のように何組もが自由に使用できる部屋と、ひとグループのみが使用できる個室がある。そこの使用は人気度で優先される。
室内を一通り見渡してから誰もいない隅のほうへ歩いて行く。
床に腰を下ろし柔軟を始めた。
「めずらしい、オヒトリデスカ」
そう彼方に声をかけてきたのは、Crashのメンバーの瀬名 空斗 。自分以外に九人いるメンバーの中ではなんとなく仲がいい。彼方より二つ下。
「なに、そのカタコトみたいな日本語」
空斗が隣に座ったので柔軟をやめる。
「いや、いや。あの煌様とユニット組んでる方においそれと話しかけられないじゃないですか」
そんな言葉とは裏腹に顔はへらへら笑っている。
「やめて、なんか寒いっ」
「あ、彼方くんだ〜」
少し離れたところからワンコのように走り寄ってくるのは、紺野 星乃 四つ年下。二人ともCrashの創立メンバーだ。
「今日は一人なんだ〜」
空斗と同じことを言う。
それもそのはずだろう。唐突にユニットが結成され三か月、デビューして一か月。ずっと煌と一緒だった。そしてその間は下の者が憧れる十三階にある個室だ。
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