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「煌さん、今日から三日間」
と彼方が言いかけると残りの二人が「あ〜」と納得する。
「SAKURAドームTHREE DAYS!」
三人同時に声を上げる。
SAKURAドームはサクラ・メディア・ホールディングスが所有するコンサートを主とするイベント会場だ。系列プロダクション以外のアーティストのコンサートやイベントも行なう。
SAKUプロといえどここで三日間ライヴを行えるのは余程人気のアーティストしかいない。つまり、都王子煌は『余程』のアーティストなのだ。
「煌様すごいよな。今年で四年目じゃない? THREE DAYS。さすがだよ、SAKUプロの王子様!」
べた褒めの空斗。
事務所内でも煌は『王子様』で後輩たちの憧れだ。
「そういうわけで、おれは三日間空きなんだ。Crashは?」
「僕たちは一週間後に野良猫ちゃんたちのライヴのバックダンサーだよ、ねぇ空ちゃん」
何処か皮肉めいた色が混じる。
「野良猫ちゃん? あ、Stray Cats ?」
『Stray Cats』はデビューしてまだ一年間も経っていない。高校生三人組の少しやんちゃを売りにしたユニットだ。
「そう。俺たちもお子様たちとじゃなくて王子様と一緒にSAKURAドームで踊りたいよ」
「今回も無限 に取られちゃったもんねぇ」
SAKUプロの中でも変わり種のパフォーマンス集団『無限』。彼らもCrash同様他のアイドルたちのバック預かっている。
「そうなんだ……」
彼方が少し複雑な顔をしていることに二人は気づいていない。
「他のメンバーは?」
「レオンと朝陽 さんは今日雑誌の取材がある。他のメンバーはそろそろ来るかな? 彼方くんも一緒にできればいいのにね」
レオンと朝陽はCrashのメインボーカルだ。
期限つきユニットが解散するまで彼方はCrashと行動を共にすることができないことになっている。
「うん。でも……おれなんかいなくたって」
長年の研究生生活からやっとどうにか加入することのできたユニットだ。しかし自分の必要性を感じたことがない。
「彼方はダンスめちゃ上手いじゃん。だけどちょっと華がなぁ」
空斗の言う通り彼方にはけして華があるとは言えない。可愛い系の顔立ちではあるが周りに埋もれてしまうほどだし、背もそれほど高くはない。ある程度身体が大きくないと存在感が薄くなる。
「わかってマス」
芽が出ない研究生はどんどん辞めていく中、それでも居続けた理由が彼にはあった。
彼方が研究生になったのは十六歳の時。それまでにダンスも歌も経験なし。ただ柔軟な身体と多少のセンスがあった。それが長い間の研究生生活でみっちりダンスのレッスンを受けていたので、ダンスだけはかなり上手くなった。
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