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「え〜彼方くん、可愛いじゃん。きっとDouble Crownで人気になっちゃうよ。そしたら、Crashに戻ってこなくなっちゃうんじゃないの〜?」  彼方よりだいぶ背の高い星乃が覆いかぶさるようにぎゅっと抱きしめてくる。儚い名前の響きを裏切る大柄で存在感が強い。尻尾をぶんぶん振っているのが見えそうなくらいに彼方に好意を寄せている。 「そんなこと……すぐ解散になっちゃうかも知れないし、戻る頃にはおれの居場所もないんじゃ……」 「そんなことないって」  空斗も手を伸ばし頭を撫でる。  そんな三人の頭上を突如として現れた影があった。 「……っせぇなぁ。くっちゃべってるなら出ていけよ」  アイドルにあるまじきドスの利いた声。 「あ、ごめん」  二人の間から顔を覗かせて、最初に彼方が謝った。  男は真上からちっと舌打ちをする。 「あんたか、天城彼方。たいして実力もないのにどうして煌さんと……どうやって取り入ったんだ?」  嫌らしさが滲み出る言い方だ。  一緒についてきた数人が「そうだそうだ」と口々に言う。 「…………」 「でもどうせ煌さんにもすぐ捨てられる。煌さん、あんたにはめちゃくちゃキツイもんな。あんな煌さん見たことな……」 「おいっいい加減にしろっ」  星乃が立ち上がって相手を威圧する。顔つきもさっきまでとはまったく違う。ワンコが狂犬にでもなったみたいに。  男たちはじりじりっと後退る。中心でケチをつけてきた男が虚勢を張ってふんっと鼻を鳴らした。 「行こうぜ」  三人を睨みつけながらぞろぞろと離れて行き室内から出ていった。  彼方がふぅと安堵の息を吐く。 「彼方くん気にしないほうがいいよ〜」  しゃがみ込んで再び彼方に抱きつこうとするが、ふっと避けられてしまう。星乃がしゅんと耳の垂れた犬のようになる。 「Live(リブ)の奴らだな。ユニット組まされたはいいがなかなかデビューさせて貰えないから彼方のことやっかんでる」 「……」 「彼方?」  黙り込んでいる彼方の顔を空斗が覗き込んだ。眉間に皺を寄せている。 「あの人たちの言うこともわかる」 「ん?」 「煌さん誰にでも優しくて誰にもあんな言い方しない。おれにだけ。おれ嫌われてるのかな」 『へた。それでダンスメインのCrashのメンバーだなんて言えるね』 『リズムにのってないっ!』 『もっと動けないのか』  連日個室レッスンルームの廊下に響き渡る声。何人もの人間が聞いている。 「そんなことないんじゃないか? 煌さんは完璧を目指したいだけだ。今までユニット組んだことないだろ。自分の『身内』には厳しくなるのかも」  空斗は慰めてくれるけど。 (アレでも抑えてるんですよ、誰もいない時はもーっと毒舌デス。それこそ悪魔みたにいさー)  

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