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「あ……でも、彼方くんもさぁ。煌さんといる時はよね、普段と。妙につっかかっていくっていうか」  と星乃が首を傾げる。空斗もそれに頷き、 「そうそう。あれ? でも彼方ってたしか……」  言いかけたところで。 「あ、彼方じゃん、久しぶり」  ぞろぞろとCrashのメンバーが入って来る。笑いかけている者ばかりではない。厳しい顔つきの者もいる。 「おや、もう煌様に捨てられちゃったかな」 「(さとい)さん、その言い方」  空斗が抗議しようとして視線で制され下を向く。 「さぁ、始めるよ。空斗も星乃も」  わざとらしく二人の名を呼んで中央に向かっていく。 「ごめんな、彼方」 「彼方くん、ごめんね」  二人は同時に謝って集団の後を追っていった。 「うん」  もうこちらを見ていない彼らに力なく手を振った。  柔軟を再開。  開脚して右足に向かってぐっと上半身を倒す。そこで止まって、一分ほどそうして起き上がった。あとが続かない。 (なんか気まずい……今日はもう……)  たいして何もしていないのに、どっと疲れたように立ち上がった。ずるずる足を引き摺るようにして部屋の外に出ていくが。 (そうだ、今日はこの後は。待ちに待った……)  同じフロアにある更衣室に到着する頃には先程の暗い顔が嘘のように明るくなっていた。 * *  SAKURAドーム周辺は人でごった返していた。  正面入口にはでかでかと、都王子煌のパネル写真と『KOU THREE DAYS LIVE』と書かれた看板がある。  そして、グッズ売り場には長蛇の列。そのほとんどが女性だ。男性もちらほらいるがどうやら付き添いらしい。開園二時間前の十六時、列の最後尾はそれでも間に合わないのではかとやきもきしている。 (やっぱり煌さんの『宿題』なんか無視して朝買いに来るべきだったかな)  黒のキャップを目深に被り、黒縁眼鏡とマスクをした怪しげな男は思った。  初日のライヴは十八時からだがグッズは朝十時から販売を開始していた。販売開始時から並ぶが今ほどではないはず。  売り場の列に並んでいると時折周りでくすくすと忍び笑いが聞こえてきたがまったく気にならない。 (もっと奇異な目で見られたことだってあるし)  煌がまだ新人の頃、小さなイベント会場で握手会やチェキ会を年に何度も繰り返していた。そうやって新人たちは名と顔を売っていく。成功して今の人気を得た後でも煌は年に一、二回そういった会を設けている。 (煌さん……ほんとにファン思いなんだよな……本性はあんな男だけど)    

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