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そんな煌を見入っている彼方の前を通り過ぎざま一瞥される。
「誰、こいつ」
こんなやつとは話したくもないというように、本人ではなく社長に向かって言う。
「前々から話してあった、きみの相方になる子だよ」
「えっまさか」
「そう。きみのユニットDouble Crownの」
やっとまともに彼方を見たかと思うと上から下まで値踏みするように何往復もする。
その眼差しは、そう、まるでゴミでも見ているかのようだった。
「誰、こいつ。全然知らないんだけど。ほんとにSAKUプロの人間なのか?」
『誰、こいつ』二度目。
(それはこっちのセリフだよー、貴方はいったい誰ですかっ)
人を小馬鹿にしたような表情。地を這うような低い声。柄の悪い物言い。
長年自分が推してきた『都王子煌』とは全然違う男だった。
「Crashの天城彼方くんだよ」
羽加多がやっぱりにこにこしながら答えた。
「Crash? Crashにこんな奴いたっけ? 全然知らねー。なんでもっと名のある奴じゃないんだよ。ま、ヘマしたら即解散だから」
悪魔のように嘲笑 った。
Q.あなたは都王子煌についてどう思いますか?
A.いつも笑顔で誰にでも優しいひと。
A.けして声を荒げたりしない柔らかな話し方をするひと。
A.きらきらしててー気品のある王子様みたいなひとー!
(ですよねー!! おれもそう思ってました)
いろいろ混乱していた彼方は翌日大学の友人やSAKUプロで顔を合わせたそれなりに話をする人間に訊きまくっていた。
昨日見た煌は別人かもしくは夢だと思いたかった。
しかし彼の頭の中にはとどめの羽加多の一言がぐるぐる渦巻いていた。
『ごめんね、彼方くん。煌くんはこっちが素だから。勿論口外厳禁だよ』
初めて羽加多の笑顔が怖いと思った瞬間だった。
(めんどーなやつってこういうことか)
* *
それから半年後煌に散々なことを言われ続けたがDouble Crownは無事デビューを果たし、彼方は煌の秘密を漏らすこともなく、ヘマはしたけど即解散にはなっていなかった。
そして、彼方の中では素の煌は別人扱いとなり、相変わらず『都王子煌』を激推ししていた。
『SAKURAドームTHREE DAYS』初日を思い返し感激の涙を流しながら帰途に着く。
ユニットを組むと決まった日、彼方は都内にある自宅からSAKUプロの寮として使われているワンルームマンションの一室に引っ越した。
その部屋にはどこもかしこも都王子煌で溢れている。ポスターやグッズ、本、煌の載っている雑誌までところ狭しと置かれている。
「煌様、今日も素敵でした〜サイコーです! 貴方のためにならなんだってできる、例え貴方に嫌われたとしても」
優しく笑いかける煌に向かって話しかける。一番のお気に入りのポスターだった。
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