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『煌のためならなんだってできる』
そう、彼方が煌の相方として選ばれたのはまさにその一点で、羽加多に見抜かれてしまったのだ。勿論そんな人間は世の中にはたくさんいるだろうが、それはほぼ女性だ。SAKUプロの現役アイドルにも研究生の中にも煌に憧れや尊敬を抱 いている者もたくさんいるには違いない。
しかし『煌のためならなんだってできる』とまで思う人間はそうはいないはず。いたとしても見極めるのが大変だ。
それが偶然にも出逢ってしまったら?
もう利用しない手はない。
ざっとシャワーを浴びてから、グッズを丁寧にトートバッグから取り出しコレクションに加える。それからテレビとBlu-rayを起動させ『あの日』の映像を見る。最近の日課だった。
無様に転んだところで「ぎああぁ」と叫んでぶち切る。しかし、すぐまたつける。
本当に観たかったのはそこではなく、その先だった。
煌に腕はがっちり掴まれ助け起こされる。それから肩に腕を回されて頰が触れんばかりに顔を近づけられる。
そして麗しい声と笑顔で。
「彼方はすごく緊張してるんだ。これから僕と頑張って成長していくから見守ってあげてほしい」
「はぁ〜尊い〜。煌様ありがとう。こんなおれを庇ってくれて。一生ついていきます〜」
その後に車内でボロクソに言われたことはその場で消去している。
その部分を見たいがために毎日『あの日』の無様な映像を流す彼方だった。
* *
都王子煌SAKURAドームTHRE EDAYS LIVE最終日、夜回。
ラストの曲が終わる。
「僕のお姫様たち〜最後まで応援ありがとう〜」
ラストは本当に王子のような衣装。白い手袋で客席に向かって手を振った後優雅にお辞儀をする。
「寂しいけどTHRE EDAYSはこれでおしまい。みんなが応援してくれたからすごく楽しかったよ。またすぐ会えるよ、それまで僕のこと忘れないでね」
煌は何度も何度もお辞儀をし、手を振りながらステージ袖に。
彼がいなくなるとすぐに「アンコール」の声と手拍子が湧きあがる。これはLIVEの『お約束』だ。
煌は本日昼回までと同様二回までのアンコールに応えた。
そこで会場中のファンは考える。
これが大千秋楽だ。他とは違う、三度目のアンコールはあるはず!
これまでは割合と引き際をわきまえた良い子たちが多いが今回は食い下がった。再びアンコールの嵐。
勿論そんなことは煌も運営側もわかっているし、そうでなくちゃならない。
大千秋楽のためのサプライズはちゃんと用意してある。
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