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(えっえっそんなこと言ってなかったよね? MCは全部煌さんだったよね?)
凍りついた笑顔のまま、漫画みたいな冷や汗を流す。
「さ、お姫様たちにご挨拶を」
彼方にだけ見えるその顔にはにやりとした笑みが浮かんでいる。
(嫌がらせかぁぁぁ)
振られたからには何か喋らなくてはならない。
「あ、天城彼方です。よろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げる。とてもアイドルとは思えないなんの工夫もない挨拶だった。
「ださっ」
その低い一言が彼方の耳に突き刺さったが鉄壁の心でどうにか無難に歌い終えラストステージは無事終演となった。
勿論その後彼方、煌、羽加多の三人となった時には罵詈雑言の嵐だったが。
* *
THREE DAYS最終日から数日経って彼方はSAKUプロビルの十階レッスン場を覗いた。今日は煌と十三階の個室で打ち合わせ&振り合わせがあった。クリスマスのSAKUプロライヴまであと二ヶ月。THREE DAYSも終わりいよいよ本腰を入れようというところだろう。
その前にCrashがいないか覗いてみたのだ。
やはりいつも誰よりも熱心にレッスンをする空斗がいて、彼方は彼の傍に寄った。
上から眺めるが気不味くて言葉がでない。空斗はそんな彼方に気づいてちらっと目を遣ったが何も言わなかった。
(やっぱり怒ってる?)
「なんで言ってくれないかなー」
床にぺったり下肢をつけて開脚。空斗は柔軟をしつつ棒読みでそう言った。
「ご、ごめん。空斗も星乃も煌さんと組みたがってたから……」
「憐れんでんの?」
ぴたっと動きを止め冷たい目で彼方を見る。
「え、そんな、憐れんでなんか」
常にない冷たさに慌てて弁解しようとするが何も浮かんでこない。
「なーんてな」
にっと空斗が笑った。
「話して貰えなかったと言うか、そんなふうに気を遣われるような心の狭い人間だって思われたことにはちょっとむっとしたけど」
「あっ。……そうだね、ごめん」
確かにそうだと思った。申し訳なさが先にたってしまい言えなかったが、そう考えること自体が失礼な話だ。
(空斗も星乃もそんな人間じゃないのに)
「まあ、サプライズっていうのもあって言えなかったんだろけど」
彼方が余りにも情けない顔をしているからそう言ってくれたのだろう。
「それに、煌さんの新たな一面も見れたことだし」
「新たな一面?」
それを聞いてぎょっとした。
(まさか煌さんの素がっ)
そう思ったけど。
「煌さんて今までユニット組んだことないだろ。孤高の王子様だったわけだから、誰かを助けたり触れ合ったりするところが見れるのは、ファンの女性たちにも新たなキュンじゃないのかな」
煌の素の姿がバレたわけではないことにホッとしたが。
(助けたり? いやいや全部煌さんの仕業でしょ)
「そ、そうなのかな?」
とりあえず相槌をうっておく。
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