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「まぁ、事務所内で会えば誰にでも優しいけど。でもそう言えば特定の誰かと親しくはしてないよな」 (誰にでも優しいけどおれには優しくない!)  いろいろ突っ込みたくなるけど口にはできなかった。 (でもそうだな。もし新たな一面を周りが感じてくれるのなら、このプロジェクトの意義もあるんだろうな)  このプロジェクトは都王子煌の新たな一面をアピールするのが目的だった。長い間人気を誇っているアイドルでもどんどんと新しい後輩が生まれてくる。少しずつ落ちてくる可能性も否めない。できることはやってみようという社長、羽加多が考案したプロジェクトだ。  そして『Double Crown』自体は大成功を収めてはならない。それは『Double Crown』のほうが良かったね〜と後々言われないためだ。煌はあくまでソロでいくのが社長の方針だ。  相方は人気がある者では駄目だった。研究生もしくは本当の素人でもいい。煌より目立ってもうまくても駄目。  彼方にはそれが課せられたがもともと煌より何もかもが劣っている。  それから煌と慣れ合わない。なるべく距離を置く。 (ガチファンとしてはこれがなかなかキツイ。だいたいユニットなのに距離置くってわけわかんない)  結果、煌に対して彼方のもともとの性格を曲げてつんつんした感じで接することにした。  それならば最初から煌のファンではないほうがいいのか? (いや、下手したら自分の居場所を失うようなこんな計画、きっとおれにしかできない。煌さんのために何でもできるおれにしか。これがおれのサイコーの推し活っ!!)  ちなみにこのプロジェクトのほとんどのことが煌には明かされていなかった。 「彼方〜?」  両の(こぶし)をぎゅっと握りじーんと一人浸っていると、空斗が不思議そうに見ていた。 「どうした?」  はっとして、慌てて手を開いてひらひらと振る。 「あ、なんでもない」 「そう? あ、お迎え来た」  視線が彼方を通り越していた。それに気づいて振り向く前に、 「彼方、何やってるの?」  と声がした。 (うぁ、この声は) 「煌さん、お疲れ様です」  空斗がすっと立ち上がり会釈をした。彼方は完全に出遅れて煌のほうには向いたものの何も言えなかった。 「お疲れ様。Crashの空斗くん」 「え、俺のこと知ってるんですか」 「勿論だよ、事務所の子たちのことはみんな知ってるよ」 「さすがです! 煌さん」  にこにこ『王子様』の笑顔に空斗も嬉しそうな顔をしている。 (え、おれのことは『誰?』って言いましたよね〜)  対応の違いになんだかむっとする。 「彼方、借りてくね。これから打ち合わせあるから」 「はい、どうぞっ! あの……SAKUプロライヴ楽しみにしてます!」 「ありがとう。僕もだよ」  

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