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(ほんとにこれは誰なんだろうね〜)
などと呑気に二人を見ていたら鋭い視線が飛んできてびくっと身体が硬直した。当然空斗には気づかせていない。彼方だけに向けられていた。
(これだよ……)
「行くよ、彼方」
その視線とは裏腹の王子声。空斗が傍にいるから。
「はい」
彼方は空斗に「じゃあ」と言い、空斗は『頑張れ』と右手の拳 を上げて見せた。
もう既に先を歩いている煌のあとを少し離れてついていく。
「煌さんお疲れ様です」
「お疲れ様〜」
誰かとすれ違う度にそんな言葉が交わされる。
(んん??)
普段通りの王子対応なのに、彼方にはその背中が何故か少しだけ怒っているように見えた。
* *
『桜ノ森スターズ・オン・ステージ』まであとひと月。
これくらいの時期になるとSAKUプロ全体がだいぶ忙しなくなってくる。それぞれの曲目もほぼ確定し、SAKURAドームでのリハーサルも始まる。さすが自社ドームというべきか、この先ひと月のライヴやイベントは入っておらず、忙しいアイドルたちが時間の空いた時にいつでも使用できるようになっている。
最後の十日前くらいになると、ユニット解体してのミックスのプログラムも発表され大急ぎで流れの打ち合わせやリハーサルが行われるようになる。
「今日は……『BLACK ALICE』と『なないろ』と一緒か。どちらも人気ユニットなんてすれ違うだけでも緊張する」
朝早くから夜遅くまでどの時間を使用していいことになっているが、偶然同じ時間に何組か重なることもある。
Double Crownもさっきまでステージ上で打ち合わせや振り合わせをしていたが『BLACK ALICE』と交替して一旦休憩に入ることになった。
会場内から普段は観覧者が行き来する場所へとで出る。壁には人気ユニットのポスターが貼られおりそれを眺めながら歩く。
煌のポスターも当然貼られており、彼方はその前で立ち止まった。
(やっぱり煌さんが一番かっこいいよ)
誰もいないのをいいことに、にまにまと緩んだ顔になっている。
「――でさぁ〜」
突然わちゃわちゃと賑やかな声が前方から聞こえてきて、はっと顔を引き締めた。
(わぁ〜なないろだ)
彼方は彼らが自分の前を通り過ぎるまでぴんと背筋を正して立っていた。
「お、お疲れ様です」
「お疲れ様〜」
なないろのメンバーも口々にそう言って通り過ぎて行った。
(なないろ、プライベートも仲良さそうだよね。羨ましい)
そんなことを思ってぶんぶんと首を振る。
(おれは煌さんとは馴れ合っちゃいけないんだ)
再び壁のほうを向いて悲しげに煌のポスターを見つめた。
「えっと……彼方くん?」
「え?」
声をかけられて振り向くと、もう遠ざかったかと思っていた『なないろ』の赤担当の緋色 が立っていた。
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