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「緋色さん……」
と言ったきりぼけっと緋色の顔を見ている。
(あれ……なんで? さっき通り過ぎて行ったよね?)
「天城彼方くん、えっと……奏 の従弟だよね?」
長身を屈めて耳元で囁いた。彼方が余りにもぼうっといたせいか、緋色の顔には苦笑いが浮かんでいた。
しかしその一言で彼方も合点がいった。
彼方の従兄の天城奏は、幼い時にひと夏を緋色と過ごした。そしてこの夏再会を果たしたが、奏のほうは自分が『奏』であることを悟られたく『彼方』の名を咄嗟に使ったのだった。
「あ、そうです。奏兄ちゃんから聞いたんですか?」
別に周りには人はいないけど雰囲気に流され彼方も内緒話のように小さな声で言う。
「あー」
緋色はなんとなく気まずげにぽりぽりと指先でこめかみを掻いた。
「奏がフリをしていた『彼方』は実在する従弟でSAKUプロに所属しているって最近聞いたんだ。それくらいしか言ってなかったけど、今見てわかったよ。やっぱり奏に似ているね」
奏のことを思い返しているのか少し愛おしいと思う気持ちが表情に現れていた。
(わぁ、イケメンのこういう顔は破壊力あるなぁ)
自分にではないのに、ちょっと照れてしまう。
Double Crownがデビューしたあの日、二人は会っていて、つき合い始めたと奏から聞いていた。名前を貸した身としては二人が上手くいくといいなぁとやきもきしていたのだ。
(いいなぁ、奏兄ちゃんは愛されてるんだ)
「まさか煌さんのユニットの相方になるくらいだなんて……今まで気づかなくてごめんね」
なないろの赤担当の『緋色』は少しちゃらそうなイメージだったがこんなに柔らかく話す人なんだと心が温かくなる。自分が煌の相方になったのは『それほどの人間』というわけじゃないのに謝らせたことに申し訳なさを感じつつもそれを明かすこともできない。
「ははは」と笑うしかなかった。
「あの……奏兄ちゃんのことよろしくお願いします」
「うん、わかった。きみも頑張れよ、彼方くん」
そう言うと緋色は他のメンバーを追いかけて行った。
* *
(彼方の奴何処行ったんだ)
煌は彼方より先に会場を出ていて普段ライヴ時には楽屋として使われている個室に戻っていていたが、しばらくしてふらりと外に出て施設内を彷徨っていた。
(別に彼奴を探してるわけじゃない、戻って来たらリハのダメだししてやろうと思ってるだけだ)
心の中で言い訳をしつつ、しっかり探していた。
会場近くまでやって来てやっと見つける。
「なんだ、まだあんなとこに……あれ、誰かと……」
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