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 煌に背を向けていて顔の確認はできないがひょろっとした体格と赤い髪ですぐわかる。 (なないろの緋色? 何やってんだ?)  少し近づき柱の影から覗き込む。  たまたま話しかけられでもしたのだろうか。そう思っていたが、妙に距離が近いような気がした。  話は聞き取れない。  緋色が長身を屈め彼方に耳打ちをするような仕草をする。それから彼方もそれに内緒話するように応えている。  彼方の表情が判別できる位置だ。はにかむように笑ったり、照れたような顔をする。 (なんだ? 親しいのか?)   なんだか胸の辺りにもやっとしたものを感じた。 「きみも頑張れよ、彼方くん」  最後に緋色がそう言うのだけは聞こえた。  彼方は少しの間緋色の去った方向を眺めていたが背を向けて壁を見入り始めた。  煌は声をかけずにその場を去った。彼方が見ていたのが自分のポスターであるとはまったく気づかずに。  なんで楽屋を出てきたのか忘れてしまったような勢いで一番近いルートで直行する。 (なんで緋色と。知り合いなのか? SAKUプロでも上位の人気を誇るユニット『なないろ』の緋色と、いくら俺とユニット組み始めたからと言ってつい最近まで名も知られていないような彼方が? 親しい仲? ないない――じゃあなんだってんだよ。俺には見せたこともないような顔しやがって)  楽屋に辿りつくまでの間そんなことをうだうだ考えている自分自身にさえ気づいてはいなかった。 * *  彼方は自販機で買ったペットボトルの水と缶コーヒーを持って楽屋のドアの前に立っていた。 (煌さんいるのかな……)  そっと、少しだけドアを開けて中を覗く。  左側の壁は鏡になっていてカウンターのようなスペースがある。化粧やヘアを整えるスペースだ。右側にはソファーとテーブルのセットがある。 「あれ……」  一見見た感じでは煌はいない。  中に入ってテーブルに近づく。テーブルの上には飲み物や軽食が載っていた。事務所からの差し入れだ。  そこまで来て初めて気づく。 「あ、煌さん」  いないとばかり思っていたのにテーブルの向こうのソファーに仰向けで寝転んでいる。目は閉じていた。 「煌さん?」  小さな声で呼びかけてみる。身動きを取らない。 (寝てるのかな……? 珍しいなぁ)  音を立てずに近づいて顔を覗き込む。  艷やかな黒髪。白い肌。長い睫毛。通った鼻筋。ちょうどよい厚みの形の良い唇。 (はぁ……王子様だなぁ。イケメンは眠っててもイケメンだ)  一時見惚れてからまた静かに離れていく。 (それがなんであんな毒舌なのかなー)  首を傾げた時。 「――お前……緋色と親しいのか」  低い声が彼方の背中を追いかけてきた。  

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