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二人は離れて座っていた。
彼方は鏡の前で。さすがにさっきの場所は避けている。まだ何をする気にもなれない彼方とは違い、煌は余裕でソファーに座ってテーブルの上にある缶コーヒーを飲んでいる。
(もしかして……煌さん、実はおれのことを……)
「いや、ゲイではないな」
(ですよね!)
『好きなんじゃ』という言葉を頭に浮かべる前にはっきりと答えが返ってきた。恐れ多い考えは形を作らず砕けた。
「バイ……って奴かな。女も男もイケる」
(ええっ)
『ゲイか』と口にした時には実は軽い気持ちだったし、本音の答えが返ってくるとも思っていなかった。
(これは本当のことなんだろうか? それともいつものようにからかってる?)
鏡に向けていた視線をちらっと煌のほうにやるとソファーから立ち上がってこっちに歩いて来る。
(わっ、こっち来る。今傍で顔を見れないよ)
また視線を逸らして白いカウンターに顔を向けてた。
傍に立った気配がする。
(なんであんなことした後に平然としてられるの?)
「……お前」
と上から声がしたかと思うと白い手が視界に入って、顎を掴まれてぐいっと煌のほうに上向けさせられる。
「な、なんですか?」
じっと顔を見つめられる。
(うわぁ、やば、かっこいい)
「また、俺の相手しろよ」
「…………」
何を言われているのかすぐにわからなかった。
(俺の相手しろよ……俺の相手……俺の……相手?)
さっきのことが頭に浮かぶ。
(あれかー! かっこいい顔をして何を言うのかと思えば、とんでもないこと言ってきたぞっ)
「なんで、おれなんかにそんなこと……」
「なんで? なんでかな。むらむらするから? 溜まってるから?」
さっきした時と同じで煌自身もわからないようだった。
(く……っそこは好きだからとか嘘でも言えよっ)
なんだか酷く怒りを覚えた。
ばっと顎を掴んでいる手を払い除け腹辺りをどんっ押した。
「何いってんですかっ」
カウンターに突伏して叫ぶ。
「そんなことならおれなんかじゃなくてっ彼女さんにでも彼氏さん? にでも相手して貰えばいいじゃないですかーっっ。どうせ煌さんなんかモテモテでしょーっ」
興奮で涙がまた滲んできた。
「もうずいぶん彼女も彼氏もいねーよ」
「嘘だーっっ煌さんみたいな人にいないなんてっっ」
もう自分でも何を言ってるのかわからない。対して煌は冷静に答える。
「本当だって。いた時もあったけど。つき合ってる時も別れた後もあることないこと言いふらされたり脅してきたりとかあったから、めんどーになった。まあ今は忙してそろどころでもないんだけどさ。肉体 のかんけーだけでもいいって奴が言い寄ってはくるけど、それも後々めんどーになりそうで。だから専ら自分の手かな。と言ってもそっち方面は割と淡白だからそれもそんなにはないけど」
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