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「彼方くん、お疲れ様」
ステージから少し離れて煌を見ていたら、後ろから声をかけられた。
振り向くと赤毛で長身の男が笑みを浮かべていた。
「緋色さん」
ちょっとした縁で――といってもほとんど彼方自身には関わりのないことなのだが、それでもこの間初めて会話した日からすれ違ったりすると声をかけてくれる。
結成も古く長い間人気を誇るユニット『なないろ』のメンバーに声をかけられるなど恐れ多くて震えてしまう。ぽっと出同然の彼方に人気アイドルたちがそう簡単には声をかけてくれるはずもなく、またそのぽっと出が煌とユニットを組んだわけだからやっかみもあって遠巻きにされてもいた。
緋色は外見や鼻を抜けるようなトーンでの話し方がちゃらそうに見えるが、穏やかで優しい人なのだろう。スタッフや共演者に対して礼儀正しく、気難しい映画監督からも気に入られているという噂も彼方は聞いていた。
そして。
「次オレらだな」
緋色にぽんと肩を叩かれた。
そうなのだ。今回のミックスで一曲緋色と組むことになっている。二人以外にあと五人。そのうち一人はCrashの聡で、Crashの中では一番彼方に好意的ではなく、残りは話したこともない先輩たちだ。この中に緋色がいたことが一番の救いだった。
「はい。なんかどきどきします」
「まあ、今日は初合わせだから気楽に。まだ二週間あるからね」
彼方はSAKUプロライヴに参加するのはこれが初めてだ。メンバーにも不安があるし、曲目もDouble Crownやなないろとは毛色の違う、黒ゴシックビジュアル系バンドのBLACK ALICEの曲だ。不安しかない。
緋色に優しく穏やかに言われて少し心が軽くなる。
(煌さんもこれくらい優しくしてくれたら……いや、黒王子がこんなに優しかったら気持ち悪い)
なんだかんだと慣れきっている彼方だった。
「彼方」
緋色と話をしている間に前のリハが終わったらしい。いつの間にか煌が傍に立っていた。
「煌さん、お疲れ様です――ぃてっ」
この時彼方を力づけている緋色の手は両肩にあった。それを引き剥がすように強引に腕を引っ張られる。
「緋色、悪いけど彼方は返してもらうよ」
「え? 煌さん?」
「煌さん、すみません。僕たちこれからリハなんです」
緋色が困ったような顔をする。
「きみたち一緒なの? そう、ごめんね」
(煌さん、なんか、怒ってる?)
彼方には煌の顔や態度、声のトーンが白王子ぎりぎりのラインであるように感じた。
「いえいえ、じゃあ、彼方くん行こうか」
また緋色の手が彼方の肩に回る。
この時一方的に煌が火花を散らしたような感じがした。
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