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(こいつに言ったことは嘘じゃない。俺は本当にこっち方面は淡白で、恋人を作らなくなってから自分ですらすることは稀だった……はずだ)
煌は自分のベッドで熟睡している男を不思議なものを見るような目で少し離れたソファーから見つめていた。
SAKURAドームでの全アイドルのリハーサルが始まって以来、彼方に触れる機会がなかった。ドーム内の楽屋は相部屋となったし、わざわざその為に事務所に戻るのもなんだかおかしな話だった。
お互いに自分のパートが終わった瞬間に彼方を自分のマンションに攫ってきた。
SAKUプロに所属するアイドルたちには寮も用意されていたが、煌くらいのレベルになると寮から出て自分でマンションなり戸建てなりを買う者もいる。
SAKUプロの人間をここに連れてきたのは初めてだった。
* *
煌は自分のパートが終わるとステージ下から見学をしていた。ひとグループ終わった後が彼方たちの番だった。自然と彼方に視線がいってしまう。
(ん?)
煌の眉間に次第に皺が寄ってくる。
ステージでは彼方たちのグループがBLAC KALICEの曲を歌っているところだが。
(なんだ彼奴、さっきから彼方の進行方向に邪魔に入ってないか?)
歌いながらステージの中央に集まってくる演出のようだがさっきからなんだか噛み合っていない。不自然に彼方に間合いを詰めている男がいて、彼方の動きが固く何度かやり直しをしている。
(彼奴……Crashの聡だよな? 同じユニットのメンバーを)
「あっ」
思わず小さく声をあげてしまう。
彼方がとうとう避けきれずに転倒してしまった。
「彼方、さっきから邪魔ばかりするなよ。きみのせいで何度もやり直しだ」
笑いを噛み殺しているような顔をしている。
煌は誰も周りにいないのをいいことにちっと舌打ちをした。足は自然とステージのほうに歩んで行く。
「すみません、聡さん」
まだ立ち上がれないまま聡に謝る。
「きみ……っ」
煌が階段を上がりながら注意しようとした時、
「大丈夫? 彼方くん」
緋色が彼方を助け起こした。
「緋色さん。ありがとうございます」
うんと彼方に向かってにこっと笑ってから、緋色は聡のほうを向いた。
「今の彼方くんが悪いわけじゃないよね?」
鼻に抜けるようなトーン。穏やかな笑顔。でも何処か圧を感じる。
緋色はこのメンバーではリーダー的存在だ。聡とでは格が違う。
「緋色さん……」
聡は呆然とした。まさか緋色が彼方に助け舟をだすとは思っていなかったのだろう。
「すみません……僕も悪かったです」
「だよね? じゃあ、次は上手くいくよね?」
完全な牽制だった。
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