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「ええーっっ」
今度こそ驚きの声をあげた。
「煌さん、なないろに入る予定だったんだ!」
そう言ってはっとしたように口を両手で覆った。
(バカだなおれ、今の『赤』は緋色さんじゃないか。それって煌さんのポジションを緋色さんが取ったってことだろ)
「さっきも言ったけど緋色は知らなかったんだよ、『赤』が俺に決まってたことは」
心中だだ漏れの彼方に苦笑混じりに答えた。
「俺は十四の時にソロでデビューしたが、ドラマに出たのが先で歌のほうはイマイチだった。だから『赤』が引退することが決まった時に試しに俺を入れてみようとでも思ったんだろ? 他にいなかったようだし。だけどだいたい本決まりってとこで社長が緋色をスカウトしてきたんだ、『赤』として」
「それっ酷くないですかっ? 社長自分で決めておいて」
両掌でバンッとテーブルを叩いて半分腰を浮かした。
「そうでもねぇよ。そういうことはままある」
前のめりになった彼方のすぐ近くに淡々という煌の端正な顔がある。
(うぁ、ちかっ)
慌てて離れて腰を落ち着けた。
「だから緋色のことは嫌ってもいないし、普通に接してる。それに俺もあの後上手い方向にいって、今ではスーパーアイドルの『王子様』だろ」
わざとらしく高慢そうに笑う。
「そうですかぁー。じゃあなんで……あんな態度」
「なんで……かぁ」
顎に手を当てて考える仕草。
「まあ、それでも、知らずにわだかまってるものはあるのかも知れねぇな――『また』お前に取られるのか……みたいな?」
最後のほうは独り言のようで彼方には意味がわからなかった。
(また取られるって何を?)
そんなことを考えながらパンを齧っていると、何かが裸の足に触れ、踵から腿までするっと動いた。
ぞくぞくぞくっと彼方の背筋に電流のようなものが駆け上がる。
「こ、煌さん!」
それは煌の裸足の指先だった。
「お前の足、綺麗だよなぁ。まぁ、足だけじゃねぇけど」
意味深な言葉と笑みに彼方の顔は真っ赤になった。
* *
十二月の芸能界はとにかく忙しい。
SAKURAドームの二日間のライヴも無事終了した。その前後に幾つもの音楽番組に出演し、サクラ・テレビ年末恒例カウントダウンライヴに三十一日午後六時から元旦午前五時までぶっ続けでライヴをして、とりあえずDouble Crownの仕事は一段落した。
カウントダウンライヴではDouble CrownとCrashのコラボもあったが、煌がいたこともあってか彼方に友好的ではないメンバーも何かを仕掛けてくることはなかった。でも彼方を見る目には妬みや嫉みのようなものがちらついていた。
(おれ……Double Crownが解散した時に、Crashに戻れるのかな……)
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