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とほほな気持ちでテレビ局の外に出た。
元旦の朝六時はまだ夜明け前で寒さが身に沁みる。
「お疲れ〜彼方」
「彼方くん、お疲れ様です」
同じように寒そうに声をかけてきたのは、空斗と星乃。
「あ、あけましておめでとう、だな」
「おめでとうございます。今年もよろしくお願いします」
番組内でもカウントダウンをして年が明け、出演者全員で「おめでとう」をしたが改めて挨拶を交わす。
「おめでとう、今年もよろしく」
「彼方く〜ん、早くCrashに戻って来てくださいよ〜」
彼方よりもでかい図体の星乃が半泣きで抱きついてくるので、よしよしと頭を撫でてやる。
「あ〜ね〜。おれ、Crashに戻れるのかな……」
さっき思った不安を吐露した。この二人になら言える。
「え? どういうこと? ずっとDouble Crownでやっていくってこと?」
一応『期間限定ユニット』と銘打っての始まりで誰もが知っている。だけど期間は限定していない。星乃はたぶんこのまま続くと思って言ったのだろうが、彼方は逆に今すぐにでも解散ということだって有り得ると考えていた。そして、解散した後に自分の居場所はあるのかという不安を常に抱えている。
「や……なんかだいぶ反感買ってるみたいな……」
「あー聡さんとかかぁ」
空斗は察した。
「大丈夫ですよ! リーダーやレオンさんはそんなこと思ってないですって! あの二人がOKなら誰も文句言わないですよ」
と星乃に慰められ、
「うん、だといいな」
少しだけ気持ちが軽くなる。
「あ、俺。前に彼方に言ったこと撤回するわ」
唐突に空斗が言う。
「なんのこと?」
「え? なになに?」
星乃も興味津々。
「おまえに華がないって言ったこと」
「あ〜」
そう言えばそんなこと言われたし、自分でも思っている。
「おれ、華が出てきたかな? ちょっと背が伸びてきたとか?」
冗談で返すと空斗は意外と真面目な顔をしていた。
「や、背は変わらんでしょー。でも……今日コラボして思った。彼方、この数か月ですいぶん上手くなったし」
「え? ほんとにぃ」
単純に嬉しい言葉だ。たぶんそれは煌の『厳しい』指導のお陰かもと思ったが、次の言葉は思ってもみないことだった。
「華……っていうか、すごく色気が出てきたような気がする」
「えっ? 色気?」
ぱっぱっと自分の全体を見渡す。
「い、色気? そう?」
自分では少しもわからなかった。
「まさか! 彼方くん彼女でもできたのっ?!」
星乃がめちゃめちゃ動揺していたが、それには彼方自身も動揺した。
「や、彼女なんてできてないけど……っ」
何処か歯切れが悪くなるのは、煌のことを考えたからだ。
(彼女じゃないし……ましてや、彼氏でも。じゃあ、何? ただの肉体 の関係? それってセフレってこと?)
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