56 / 70

33

 どよんとした気持ちになってきた。 (だいたい自分自身も煌さんのことをどう思っているんだろ。勿論相変わらず『推し』だけど。セックスすることを推し活とか……さすがに思えないし。流されているだけ……? それともやっぱりいつの間にか煌さんのことを……しかもあの『黒王子』のほうを……) 「彼方〜どした?」  目の前で空斗が手を振っている。どうやら自分の世界に入っていたらしい。 「え? ううん、なんでも〜。二人はこれから」  慌てて話を逸らそうとしたらそれを遮るように、 「お兄ちゃぁぁぁんっ」  女の子の声が後方から聞こえてきた。しかもかなりの大音量だ。  彼らは人目のつかない裏口の前にいたがそんな声を聞きつける人もいるかも知れない。  彼女は叫びながらがしっと空斗の背中に張りついた。 「聖羅(せいら)、しーっ。声でかい」  顔を少し後方に向けて窘めた。 「あ、ごめん、お兄ちゃん」 「お兄ちゃん?! ってあれ、Flower(フラワー)のセイラ? SAKU・SIS(サク・シス)の」  SAKUSIS――SAKUプロからの派生でできた女子だけの芸能プロダクション『桜ノ森シスターズ』の通称。今空斗に抱きついているのは可愛らしいが売りの七人組ユニット『Flower』のセイラだ。  カウントダウンライヴはSAKUプロだけじゃなく、サクラ・メディア・ホールディングス傘下のプロダクションばかりでもなく、人気や話題のアーティストたちが出演していた。 「そうなんですよ〜、セイラちゃんは空ちゃんの妹ちゃんなんですよ」   空斗ではなく星乃が答えた。彼方よりつき合いが長い為か事情を知っているらしい。 「あ、星くんもいたんだ」 「いましたよ〜すみませんね〜影薄くて」  星乃はけして影は薄くないし図体もでかい。 (お兄ちゃん、大好きっこか) 「お兄ちゃんと久しぶりにお仕事できてセイラ嬉しい」  ぎゅっと更に抱きしめられ空斗は溜息をついた。 「あ……天城彼方さん?」  漸く彼方のことが目に入ったらしい。 「おれのこと知ってるの?」 「Crashの新メンバーとか煌様とユニット組んでるとかそれくらいだけど。お兄ちゃんとは仲良いんですね。それなら私とも仲良くしてください」 「ははは……うん、よろしくね」  やや乾いた笑いが漏れてしまった。しかしそんなことも聖羅は気にしないようだった。 「お兄ちゃん、お迎え来てるよ。早く帰ろうよ」 「ああ」  見ると裏口側の駐車場に何台か車が止まっていた。出演者の迎えやマネージャーが待機していたのだろう。 「じゃあ俺ら今日はこのあと実家に帰るから。星乃もだろ? 一緒に乗ってけ」 「ありがとうござぃやすっ」 「彼方はどうすんの? 今日仕事あるの?」  中にはこのあとまだ仕事が入っている者もいるだろう。しかしDouble Crownの仕事始めは四日からだった。 「ううん、おれも久しぶりに実家に帰ろうと思ってる」  

ともだちにシェアしよう!