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 煌の言葉でふと思ったのは、もしかしたらこの休みは煌が羽加多に頼んだんじゃないかということ。 (おれはこの忙しい時期を越すのが初めてで……疲れきるのを見越して……とか) 「シャワー浴びるか? ゆっくり風呂に浸かってきてもいいけど」  煌の優しい言葉が続く。 (どうしちゃったの煌さん) 「じゃあ……シャワーだけでも」  困惑を隠してベッドから下りる。 「着替え用意しておくから」  優しすぎて逆にもやもやしたものが溢れてくる。これは相方としての好意か、それとも。 (おれのことそういう意味で好きとか。そんなこと考えること自体、おれずうずうしすぎる〜)  なんか泣きそうになるのを誤魔化すために、つんつん発動。 「煌さん! 彼シャツはやめてくださいねっ!」  びしっと放ってしまった。 「俺、けっこう気に入ってんだけどなぁ」  あははと楽しげな笑い声を寝室のドアでシャットアウトした。  あったのは彼シャツ……ではなく、普通に長袖長ズボンのルームウェアだった。部屋の中は暖かくされていてそれだけで充分だった。  リビングのドアを開けるといい匂いが漂ってきていて、それだけでお腹がぐぅっと鳴った。 「でけぇ音!」  煌がまた笑っている。 「お腹空いちゃって」 「だよな〜昨日はほとんど何も食べてない」  ダイニングテーブルではなく、ソファーセットのテーブルのほうに料理が並んでいる。 「なななななんですか〜っっこの美しい食べ物たちは〜」  四角い入れ物は更に四角く中を区切られていて、その中にはローストビーフやら白身魚のカルパッチョ、パンチェッタのシーザーサラダなどが入っている。洋風お節といったところか。 「ここここここれは、煌様が作ったんですかぁぁぁ」 「ぶはぁっ、なんだそのオタクっぽい喋り方。煌様って」  さっきからめちゃめちゃ笑っている。白王子も黒王子も今までこんなに笑ったことないなぁと見惚れたが、ついアイドルオタクな部分が出たことが恥ずかしくなって静かになる。 「すみません、つい」 「別にいいけど。まぁ食べようぜ――そっち座って」  と促されるままに座ると煌も隣に座った。てっきり向かい合って座るのかと思っていたのだが。 (えっなんでこっちに。ちかいちかいちかい)  煌がダイニングテーブルではなくこちらに料理を用意したのはそういうわけだったのだろうか。 「食べる前に」   これっというように、テーブルの上にあった細身の綺麗な硝子瓶を掲げた。 「もう二十歳越えてるんだよなぁ?」 「はい。二十二です」 「じゃあ、少しは飲めのか?」  ふと見るとテーブルの上に硝子のお猪口が二個置かれていた。煌はその一つを彼方に持たせて硝子瓶の中の透明な液体を注いだ。匂いからして日本酒のようだ。 「日本酒?」  煌のイメージからするとワインやシャンパンという感じがするが。 「やっぱ。正月は日本酒でしょー」  どうやら彼の自論らしい。そう言いながら自分の分も注ごうとするので彼方は慌ててそれを止めた。

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