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「あ、おれが」
「そうか?」
瓶を彼方に渡し煌はお猪口を掲げた。それに手を震わせながら液体を注ぐ。
「あけましておめでとー、今年もよろしくな」
彼方の持っているお猪口にシャンと合わせる。
「おめでとうございます。今年もよろしくお願いします」
彼方からもカチンと合わせる。その手も震えていた。
(まさかあの煌様とサシでお酒を交わす日がくるとはぁぁ)
感動に打ち震えながら一気に飲んでしまう。喉がカッと熱くなってそれから身体も熱くなってくる。
(なんか一気にくるなぁ。日本酒ほとんど飲んだことないし)
ふわふわっとなんだかよい気持ちになってきた。
「大丈夫か? 彼方? まさかもう酔ったのか?」
「いいえ! そんなことはありません!」
そう言いきったが煌には疑わしそう目つきで見られた。
それから二人で他愛ないことを話しながら小一時間ほど食べたり飲んだりしていた。
彼方は料理を口にする度「めちゃうまい〜」「煌様天才!」などと褒めちぎる。
煌は「彼方は大学生?」「家族は?」と軽く質問をしてきた。ユニットを組んだ時に訊きそうな初歩の初歩の質問のような気もするが、たぶん自分には興味がなかったのだろう。
(ということは……少しはおれ自身に関心が?)
頭がふわふわしているせいか心もなんだかふわふわした感じになってきた。
「一応雑煮も作ったけど食べるか?」
そろそろ〆と思ったのか煌がそう提案した。
「お雑煮までっ! 煌様さすがです〜っ。でも今はもう入りそうにありません」
馴れ合ってはいけないと思ってつんつんしてきたことなどもうまったく何処かへいってしまった。にこにこ幸せそうな顔で答える。
「彼方〜お前、酔ってるの?」
煌は箸を置き、スッと身を寄せてきた。彼はまったく酔っているようではなかったが体温は常より高めだ。
「酔ってませんよ〜」
酔っぱらいが絶対言いそうな言葉を吐く。煌の手がするっと背中を撫でて反対側の脇腹に回る。ぐっと引き寄せられた。
「彼方……」
耳元で囁かれて甘い雰囲気が漂う。彼方は酔いか一気に冷めたような気がした。
「煌さんっちかいですって」
軽く煌の身体を弱々しく押し退けるような仕草を取る。
(これは……あれだ……いつもの流れになるやつだ……)
今まで散々流されてきた。でも自分の気持ちがはっきりしてきた今は違う。
(煌さんはきっと、発散したいだけなんだ……)
自分の気持ちとの違いが哀しい。
「彼方」
余りにも弱々しい避けかたで煌には通じてなかったのかぎゅっと抱きしめられた。肩に顔を埋められちゅっと吸われた。
「やめてくださいっおれ、もうっ煌さんとはこういうことしないんですっ」
今度は力いっぱい押し退けた。
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