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「なんだ、随分急だな」  興が削がれたような声に酷く腹が立った。 (おれの気も知らないで!) 「急ですかねっ? そうでもないんじゃないんですかっおれいつもやめてくださいって言ってますよね?」  弱々しくだけど。結局あっというに流されちゃうんだけど。 「まぁ最初はなぁ、でもすぐその気になるだろ?」 「ええっそうですねっ! だけどおれっもうっ流されませんからっ」 「彼方? 何怒ってんの?」  自棄っぱちに声を張り上げる彼方とは裏腹に煌の声は冷静だ。そんな温度差の違いにも腹が立つ。 「なんでこっち見ないんだ?」  そう。さっきから彼方は煌とは反対側に顔を向けて言っている。 (顔見ちゃうからだめなんだよ〜煌さんの麗しい顔で求められちゃったら流されちゃうに決まってるだろ)   手が顎に伸びてきて自分のほうに向かせようとするのを断固として拒否。 「怒ってませんよ、怒ってませんけどねっ。ただ煌さんとおれの気持ちは違うから」 「違う?」  まったくわかってないことに泣きたくなる。 「……おれ、煌さんのことが好きですっ! 好きになっちゃったんですっ! 煌さんはおれのことなんてセフレぐらいにしか思ってないでしょうけどねっ」  勢い余って全部吐きだしてしまってから、はっとする。 (あ〜言うつもりなんかなかったのにぃぃぃ)  わっと顔を覆った。その両掌が濡れていく。 「好きだけど」  世にも軽そうな声が聞こえてくる。意外な言葉に少し驚いたが、彼の心はそれと同じくらい軽いのだろうと思って唇を噛みしめる。 「へぇ〜そうなんですか、それってどういう意味ですか? ドバイチョコが好き〜とかカヌチュロが好き〜とかそんなノリですかっ?!」  もう自分でも何を言っているのかわからない。 「何チョイスそれ?」  呆れたような口調。 (いいよ〜もう呆れてくれて。そんでそんでもうおれとはもうスル気にならなきゃいい) 「っつか、セフレってなに? 俺そんな気ねぇけど」  ぐっと再び抱きこまれて、煌のほうへ身体を向かされた。 「じゃあ、なんて言えばいいんだ?」  覆っていた両掌もぐいっと剥がされてしまう。涙で滲んで見える彼の顔は思いの外真剣だった。 「愛してるとでも言えばいいのか?」 「えっ……」 「そう言えばお前は信じんのか?」  その真剣そのものの言葉に驚いていて何も言えないでいると、煌の顔が近づいてきた。  自分の唇に押しつけられたそれはすごく熱い。 (え……キス……されてる?)  思わず避けようとするが、煌がそれを許さなかった。唇は追いかけてくるし、終いには両頬を熱い手で押さえられ何処にも動かすことができなくなった。  唇が無理矢理こじ開けられる。少しアルコールの味のする熱い舌が入りこんで口内を弄り自分の舌に絡んでくる。  

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