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「ところでさっきの話のことだが」
先に口火を切ったのは煌だった。
「さっきの話?」
ハテナと首を傾げる。どの話のことだろうか。
「王子様の僕とお前に見せる本当の俺とどっちが好きなんだってことだよ」
彼方の反応が鈍かったせいだろうか、ちっと舌打ちをする。
(そ、そうだった。そのことから始まった煌さんの告白だった!)
その前に思いきって言った自分の気持ちは煌に誤解を招いていた。あの時思いきって言いすぎて、もう一度言うのが恥ずかしい。でも言わないとわかって貰えないんだ。ぐっ両手を握りしめ自分に喝を入れる。
「おれはっ白王子も黒王子もどっちの煌さんも好きですっ」
どうだっ言ったぞとばかりにふんと鼻を鳴らすが。
「白王子? 黒王子? ってなに?」
煌はまだぴんとこないようだった。
「あ……」
さっきの勢いは落としてやや神妙な面持ちになる。
「……おれはずっときらきらの王子様の煌さんのファンで、拗らせすぎてSAKUプロの研究生になりました。でも別に煌さんと会えるチャンスがあるかなとか思ってたわけでも、ましてやデビューできたらいいとかって思っていたわけでもないんです。ただ煌さんいた場所にいたかった、追いだされるまで研究生でいよう! って……これって女子じゃできない、サイコーの推し活じゃないですかっ」
握っていた拳にもう一度ぎゅっと力を込める。
(あれ……)
やや冷ややかな眼差しを感じた。またオタクな自分がでてしまったと内心焦る。
「それがどういうわけか煌さんの相方に決まってしまい、煌さんの本性が黒お……じゃなくて! 控えめに言って横柄だし言葉遣いも悪し、今までの煌さんががらがら崩れてかなりショックだった。でもそれよりもそういう態度を見せるのはおれにだけなんだってほうがショックだった。きっとおれが嫌いなんだって思って。そう思っても煌さんのことは嫌いにはなれなかった」
一気に話したので喉がからからだった。飲みかけの日本酒をまた呷ってばんっとお猪口をテーブルの上に置く。
「お、おい」
ちょっと驚いたような顔で軽く腕を掴まれた。逆に彼方も腕を掴み返した。
「煌さんがあんなことしてくるのもおれへの見せしめなんじゃないかとか、最後までしちゃった後も性欲の捌け口でいいとこセフレなんじゃないかって。これも推し活! だなんてカラ元気だしても、哀しくなっちゃって……辛くなっちゃって、もうこんな関係はやめようって思って。それって、もう、煌さんのこと大好きってことですよねっ! おれはきらきらの王子様も真っ黒黒な生身の煌さんのことも全部ひっくるめて大好きなんですっっ」
いつの間にか煌の顔の間近で力説していた。
「お前、良いこと言ってるようで結構酷いこと言ってぞ」
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