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* *  一週間が過ぎ、ミックスリハも三度目になる。 「なんか、ふらっふらっだね、ユエちん」 「…………」 「日を追うごとに調子悪くなってくなぁ」 「…………」  今はソウ、ユエが別ユニットとのミックスでステージに上がっており、それをアリーナ席側からウイとトワが見ていた。  自分の出番を待つ者、終えた者が客席には大勢いて、話をしていたりステージを見ていたりとそれぞれだ。通路で練習している者もいる。 「でも、歌ってる最中はしゃんとしているところがさっすがだよね〜」 「…………」  喋っているのはウイだけでトワはずっと黙りだ。じっと、ステージを、いやユエを見ていた。 「去年もこうだったかな、や、去年よりヒドイかも〜」 「……ああ」  吐息のような声が漏れてきた。  サングラスと目深に被った帽子で表情が上手く読み取れないし、元々表情筋が死んでいるのかと思うくらいに変わらない。そんなトワがユエのことになると微妙に表情が、というより纏う空気が変わることをウイは気づいていた。 「……あー、そろそろボクちゃんたちもスタンバる?」 「…………」 (また黙りですか……)  なんとなく面白くない気分でステージを見ていると、曲が終わりユエたちのグループは解散しようとしているところだった。 「あっ」  ウイが驚いて声を上げたのは、ユエが倒れそうになったからだ。二人ともステージに上がる階段のほうへ小走りに急いだ。  勿論その前にソウがキャッチした。他のメンバーと話していて少し離れたところにいたのに、素早い対応だ。 「さすが、ソウさん」  「…………」  走る速度を少し緩める。隣で少しピリッとした空気を感じたが、気づかないことにした。  それよりも他に気になることがあった。 「今さ……倒れる前にさ」  トワにしか聞こえないくらいに小声で言うと「ああ」と割とはっきりとした返事が返ってくる。 「さっきの、橙也(とうや)だよな」 「ああ」  どうやらトワも見逃していなかったようだ。ユエが倒れる前にその人物に話しかけられているのを。  九年間なないろの(だいだい)を担当している橙也。賑やかななないろの中ではあまり羽目を外さない大人っぽい男で、次期リーダーとも噂されている。 「そういえば、橙也って去年オン・ステ参加してなかったんじゃね?」 「よく覚えてるな」 「やだ、トワに褒められちゃった」   大袈裟に両手を頬に当てて言う。 「別に褒めてねー」 「冷たっ」  わざとらしくがっくりと肩を落とした。 「……確か……怪我したとかで……」  黒のネイルをしている綺麗な指を顎に当てて思案顔。 「去年以上の不調……ひょっとして、橙也が何か関係してるとか?」  しかし思慮深さは一瞬で消え、いつものようにへらっと笑う。 「まあ、考えても仕方ないかー。あとは保護者様にお任せだー」  ちょうどユエを支えながらソウがステージから下りてきて、二組は階段の中程で顔を合わせた。 「ユエちん大丈夫?」  ユエに言っても答えられる状況ではなさそうだと、最初からソウに話しかける。ソウが難しい顔をしているところから、『大丈夫』ではないことが分かる。 「ユエはBLACK ALICEのリハまで楽屋で休ませる」  まだ他のユニットとのミックスも残っていた。それが終わった後に、今日はBLACK ALICEのリハーサルもする予定だ。 「了解っす」  しゅたっと敬礼する。 「オレら次なんで、ユエちんのことよろしくー」 「ああ」  二組はすれ違い、ソウとユエは階段を下へ、ウイとトワは上へと上がる。  トワは途中で立ち止まり、二人が会場の外へと出て行くのを黙って見つめていた。

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