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* *  海と、遠くに山しか見えないような町だった。  高い建物はなく人家も疎ら。 (三年前、俺はここにユエを……いや、来栖(くるす)(ゆい)を探しに来たんだ)  ソウはハンドルを握りながら過去へと思いを馳せた。  新ユニットを結成するにあたってソウはどうしても入れたい『声』があった。たった一度聞いただけで忘れられないような声だった。  ハクトの持っていた情報を頼りに、二人で探す。本当にその『声』なのかは会ってみないことにはわからない。空振りということも全然あり得る。  海岸沿いにはぽつんぽつんと店があり、寂れた安酒場のようなところに入った。  入ってみるとそこはライブハウスだったらしく、外観を裏切るパワフルな曲で溢れかえっていた。興味が湧き演奏が終わるまで聞いていた。  演奏が終わると、はっと当初の目的を思い出す。  店のスタッフと思われる女性――いや、女装の男子に声をかける。先程のバンドの、ギター兼ボーカルだ。  彼にスマホの動画を見せて訊ねる。 「この少年を知らないか?」と。  二人はラッキーだった。  彼はその人物を知っていた。  ライブハウス近くの海岸で歌を歌っている『(ゆい)』という人物だと教えてくれた。  ソウとハクトはそのライブハウスを出た。  彼らはその後あっさりと『結』を見つけ、思いの外簡単に『結』をメンバーに引き入れることができた。  ちなみに『結』のことを教えてくれた女装男子こそウイであり、後日彼もスカウトするに至る。  それが三年前の出来事だ。  数日後、ユエの両親を含め改めて話をし、特に反対をされることもなく彼をSAKUプロに連れて行った。  ユエは驚くほど自分に無頓着で、これから自分の世界や周りが変わっていくことにもなんの興味も示さないようだった。それでも歌う時だけは別人のようで、BLACK ALICE『ユエ』としてソウの期待には十分に応えていた。    一緒に暮らし始めてから二か月後の十二月三十一日。ソウが目覚めるとユエの姿がなかった。  BLACK ALICEとしてはまだ活動を始めていなかった時分で、彼が一人でマンションを出ることはなかった。  書き置きなどはなく、その時初めて彼がスマホを持っていなかったことに気づく。連絡する先はユエの実家くらいしか知らなかった。  マンション周辺やSAKUプロを探してみたが見つからない。やはり無理強いをして連れてきたのではないかと思い始めた。  しかし、そんなソウの心配をよそに、彼は夜になって何事もなかったかのように戻ってきた。 「どこ行ってたんだ。なんで黙って出ていったんだ」  初めてユエに対して声を荒げた。彼はソウが何故そんなに怒っているのか分からなかったのか、酷く不思議そうな顔をした。  その後ソウはユエにスマホを買い与えることを忘れなかった。  翌年の十二月三十一日も朝目覚めるとユエはいなかった。しかし、前年のことがあったからか、スマホに『ちょっと出かけてくる』というメッセージが入っていた。 (メッセージ入れればいいってもんじゃないんだけど)  ソウは頭を抱えた。BLACK ALICEはその年の三月にデビューをしていて、その日は毎年恒例のカウントダウンライブに出演することになっていたからだ。  仕方なく急遽ユエは病欠ということにした。  十二月三十一日には『何か』があるのだ。  ハクトに、ユエをカウントダウンライブから外してくれるように進言したのは、けして体調不良が理由ではなかった。  どうせまた『どこ』かへ行くのだろうと思ったからだ。  ソウは知りたくなったのだ。  どこへ行くのか、何があるのか。        

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