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海岸沿いの大きな道から外れ、古い町並みの中をユエの指示通りに車を走らせる。人家の間を細かに曲がりながら、緩やかに上がっていっているようだ。
(この道だったろうか)
三年前、ナビを頼りにユエを迎えに来た。もうはっきりとは思い出せない。
やや急な坂に差しかかり、突き当たった先には大きな木の門が見えた。
その前の砂利の敷き詰められた広い場所に車を停める。他にも何台か駐車してあり、そこが駐車場だとわかる。
車から下りて、門の向こうを見上げる。人家とは違った作りの古めかしい建物があった。
(寺……?)
ユエは何も言わず、門のほうへ向かった。ソウも何も訊ねず彼についていく。
門を潜り抜けるとそこはやはり寺であり、右手に墓地が広がっていた。
門と本殿の間に墓参者用に水道、桶、柄杓などが置いてある場所があり、そこには僅かながら供える花や線香も置いてあった。
ユエは手ぶらで来ていた。
示されている金額を箱の中に納め、花、線香を持つ。それからくるっと振り返り、無言でソウの胸に押しつけた。突然の行動で思わず取り落としそうになるが、なんとか受け止めた。
ユエ自身は桶に水を入れ、柄杓を持って墓地のほうに向かった。
(墓参りだったのか……いったい誰の?)
聞きたいことは山ほどあるが、それはまた後ほどということにした。
墓地の奥へ奥へと進んでいく。
ユエは一つの墓の前に立ち止まった。背の高い立派な墓石ではあるが、新しいものではないらしいとソウは感じた。
その墓の後ろは低い塀があり、覗き込むとそこには海が広がっていた。海岸から離れて行ったつもりだったが、巡り巡ってまた海側に戻ってきていたようだ。この墓地は海を望んだ、小高い土地となっていた。
『来栖家之墓』
墓石にはそう刻まれている。
花はもう既に手向けられており、掃除もされているようだった。墓石の前にある線香置きには新しめの灰も残っている。
ユエが振り返ったので花と線香を渡す。
(ユエの家のお墓か……? ご両親は……健在だよな? 兄弟いたっけ? それとも親戚のお墓……)
そんなことをぐるぐる考えていると、ユエがすでに満杯の花筒に花を無理矢理突っ込んで、水をあげているところだった。水は溢れて墓石を流れていく。
線香に火を付け始めたがなかなか付かず、半分くらい付けたところでそのまま香炉に入れてしまった。
(雑っ。ユエはこんな堪え性のない人間だったか? まるで早く立ち去りたいみたいに)
彼がしゃがんで手を合わせた。その後ろでソウは立ったまま手を合わせる。相手が分からないので頭に浮かぶ言葉は何もない。
ほんの数秒でユエは立ち上がり、桶と柄杓を持ってそこから離れた。
目の前を過ぎていく横顔は酷く苦しそうだった。
ソウはその場を立ち去る前に、ちらっと墓石の側面を見た。没年月日、戒名、享年などが書かれていた。
「家に帰るんだろ? またナビして」
ソウはエンジンをかけ、カーナビの画面を見ながら隣に声を掛けた。寺に来てからずっと黙っていたユエがやっと口を開く。
「ううん、家には帰らない。このまま、戻って」
「え? いいのか?」
返事が返ってこないのでゆっくりと発進させた。
(実家に帰ると言っていたが、ひょっとして今までも墓参りをしに来ていただけなんだろうか)
再びユエの指示で海岸線まで辿り着くと、後は分かるだろうというばかりにユエは眠ってしまった。
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