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「見たんです、墓石の側面に書いてあるのを。一番新しく記された没年月日は五年前の十二月三十一日、享年十六歳。五年前の……ユエと同じ年」 「ああ……」  ハクトが溜息のような声を漏らした。 「ハクトさん、言ってましたね。ユエ、いや、来栖(ゆい)はユニットデビューを前にプロジェクトが頓挫したのだと。その理由は?」  ソウは新ユニットをプロデュースするにあたり、どうしても欲しい『声』があるとハクトに相談した。  『その時』ソウはSAKUプロビルの十二階のエレベーター前にいた。考え事をしていたせいか目的の十四階ではなく、十二階を押してしまっていたらしい。エレベーターはどこかで呼ばれ、気づいた時にはもういなくなっていた。  ソウは再びエレベーターを待つことにした。  ここ十二階は個室とまではいかないが、十、十一階よりも規模の小さい部屋があり、空いていれば十三階よりも気軽に使える半個室のような所だ。  たまたま廊下に誰もおらず、しんと静まり返っていた。中に誰かいたとしても、防音になっていて外には漏れてこない。 (あれ……?)  ソウは廊下に背を向け、エレベーターを見て立っていた。そんな彼の耳に微かに歌声が聞こえてきた。  ドアが開いたままになっているのだろうか。  音量は小さいのに、耳に入りこんでくるような不思議な声質。  ソウは気になって廊下を歩いていく。どこも扉は閉まっていたが、声は僅かずつ大きくなっていく。近づいている証拠だ。  途切れず聴こえる『歌声』は脳裏に刻み込まれていく感覚がした。  扉が少し開いていたのは一番奥の部屋だった。 (ほんとに少しだけだ、それもこんな奥まった部屋。なのにあそこまで届いた)  遠くにあるエレベーターを振り返る。八十メートルはありそうだ。  薄く開いた隙間からそっと覗き込む。 (なんか悪いことしてるみたいだ)  妙にドキドキしたのは、その行為かそれともその『歌声』にか。  歌っていたのは、十三、四歳くらいの、小柄な少年だ。 (知らない顔だ)  ここはSAKUプロビル内のレッスン場なので、研究生はいないはず。 (いるとしたら、デビューが決まっている……)  彼はソウにはまったく気づかず歌い続ける。  ソウの聞いたことのない歌、SAKUプロアイドルの歌。次々と楽しそうに歌っている。  変声期途中なのか、完全な男のそれとは違う声質。それなのに幅広い音域もあり、声量もある。 (すごいな……この子)  ドア越しにしばらく聞いてから、そっと離れた。  この出来事と歌声をソウはずっと忘れることはなかった。 「デビュー間近だと思っていたのに、いつまで経っても彼は現れなかった。SAKUプロビルでもあれ以来見かけることもなかったけど、もしデビューが決まってないなら、ぜったいあの『声』はほしいと思った」 「そうだったな。それで俺は相談を受けた。(あお)が見かけた時期と容姿なんかで『来栖結』なんじゃないかと当たりをつけた。まあ違う可能性もなくはなかったが」 『蒼』は『ソウ』の本名であり、なないろでもそのまま使っていた。ハクトとは『ソウ』である時期よりも『蒼』である時期のつき合いが長く、今でもプライベートでは『蒼』と呼ぶことも多い。 「そういえば、あの時は言わなかったかな。来栖結のユニットの相方は、彼の従兄弟の来栖(つばさ)という子だ」 「くるすつばさ……従兄弟……それって」 「ひと月違いの同い年。そして、顔立ちもよく似ている。兄弟……双子だと言われてもおかしくないくらいに。十一の時に二人一緒に研究生になった。歌もダンスも結のほうが上手かったけど、二人一緒だと妙にシンクロしていて面白いと講師陣の間で噂になった」  研究生の講師には尊属講師以外にも、有名な作詞作曲家、ダンサー、アーティストなどの特別講師が来ることもある。 「それを社長が面白がって、それをにしてみようというプロジェクトだった」 「あーあの社長なら言いそうなことですね」 「それで、頓挫の理由なんだけど。俺も彼らの担当者から聞いただけで詳しくは知らないんだけど――」    

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