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 過去を思い返すように視線は(くう)に浮く。 「――来栖翼が体調を崩して事務所を退社したからなんだ」  研究生といえど事務所と契約を交わしている。歌番組やライブでバックを担えば給料も支払われる。 「退社……ってことは、一時的なことではなかったということですか」 「そういうことだな。実はそれまでも度々体調を崩していたらしい」 「それで……ユエはどうしたんです?」 「三年くらい研究生でいたらしい。その間他のユニットを作る話も何度か出てたけど、ユエは首を縦に振らなかった。ただ研究生としてレッスンを続けていただけ」 「三年……」  そのキーワードにソウははっとした。 「その従兄弟の来栖翼は……ひょっとして……そういえば、戒名に『翼』という字があった……」  それが何を意味するのか。  二人同時に浮かんだ言葉は、やはり二人とも口にはしなかった。 『来栖翼の死』  だがそれも確定ではない。   「もしそれが本当だとして……だからといって、あんなに苦しんだりするんだろうか……眠っている時でもあんなに魘されて……あるいは、彼の死にユエが関係してるとか……」  これはハクトに向かって言っているのではない。自分の中の疑問だ。でもつい口に出して言ってしまった。ハクトもそれを聞いていても何も言わなかった。  軽く答えられる問題でもない。 「いや……そんなことは……」  大きく息を吐いてぶるっと頭を振る。アッシュグレイの髪が揺れた。 「俺の知っているのはそれくらいだ。せっかく来てくれたけど、たいしたことは答えられなくてすまない」 「そんな、何言ってるんです」  ハクトに謝られて慌てて目の前で両掌を振る。 「担当じゃないって知ってたからそんなに多くの情報を持ってないって最初からわかってたんです。でも少しでも何か新しいことがわかればって。俺こそこれだけのために時間取ってもらってすみません」 「いや、休みだし。特に用事もないし、全然構わないよ」 「あの時も」  あの『声』の(ぬし)のことを相談した時、『来栖結』ではないかと教えてくれて、実家の住所まで調べてくれた。 「ユエの実家の住所を調べてくれて……っていうか、よくわかりましたよね? 退社したらデータ消されるじゃなかったでしたっけ?」 「あの二人の担当者が、俺が面倒見た後輩だったから」  ふふっと悪い笑みを浮かべた。 「悪い大人だなー」  少しだけ場が和んだ。  しかし、ソウの悩みは尽きない。 「あー」といきなり大声を出し、伸びをするように両腕を上げる。 「仮にユニットの相方で従兄弟の来栖翼が十二月三十一日に亡くなっていて、あの墓がそれだとして、それがわかったからってどうすればいいんだ。どうすれば、ユエの苦しみを和らげることができるんだ。だいたいどうして、苦しんでるんだ?」 「ソウ……」  煮詰まっている彼にハクトは労りの目を向けた。 「ユエは芸能界にいたくなかったんじゃないのか? だから、新ユニットの話も蹴って退社した。それなのになんで俺の誘いに乗った? あんなに苦しそうにしながら」  一頻り心の内を叫んでソウはまた黙り込んだ。 (こんなことはユエに聞くのが一番簡単だ。でも聞いたら、ユエは逃げて行くんじゃないのか?)  ぽんっと炬燵の向こうから軽く肩を叩かれる。 「まあ……とりあえず、飲みなよ」  空になっていたお猪口に新たな酒を注ぐ。ハクトは自分のお猪口にも注いで、ソウに向かって掲げた。ソウもそれに倣って軽く上げる。  ちびっと飲みながら。 「……ソウは、なないろでリーダー張っていた時から面倒見もよくてメンバーを大事にしていた。BLACK ALICEでも同様だけど……ユエに対してはどこか違う気がする。メンバーは大事にするが、個々を尊重してソウからは深く踏み込まない。相手の方が助けを求めればいくらでも手助けする。でも、ユエには自分から踏み込んでいっている気がするよ」

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