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「それは俺も知りたいところですよ」
ソウが苦く笑う。
「ウイもトワも、もちろんハクトさんも。BLACK ALICEのメンバーはみんな大事です。まぁ、でも、あの二人は芯が強くて、『自分』を持っている人間なんでプライベートな悩みは言ってきたりしません。素顔がわからない謎めいたバンドBLACK ALICE。対外的にはそうですが。別にバンド内でもそうしようってことではないのに、お互いまったくプライベートでは関わらないタイプなので。なんだかそれはそれで少し寂しいというか」
そういうソウも、なないろに入った時からリーダー、BLACK ALICEでもリーダーで年長者だ、なかなか本心を曝け出すことはしない。そんな彼がこんなふうに本音を言うのは余程弱っているのかもしれない。誰かに話すだけでも気持ちが軽くなったり、整理がつくこともあるだろう。
そう思ってハクトは、口を挟まず黙って聞くことにした。
「けど、ユエは……いや、ユエも何も言ってこないんだけど……でも、ウイやトワとは違う。彼の本質は、初めて会った時の彼なんだと思う。それなのに、笑いもせず、何にも誰にも興味を示さないような感じで……。歌うのはたぶん変わらず好きなんだろう……海岸で一人で歌っていたくらいだ。でも、どこか苦しそうで、もがいているみたいな。レッスン場で楽しそうにずっと歌い続けていた時とは違う。……まあ、BLACK ALICEのコンセプトには合ってるんだけど」
時々酒で口を潤しながら、自分の心の内を確認するようにゆっくりと語る。
「俺は……きっとユエの笑った顔が見たいのかもしれない。あの時の少年の開けっぴろげな笑顔じゃなくていい。少し大人になった彼の、自然に浮かんでくるような笑顔を」
ソウはハクトの顔を見てくすっと自嘲気味に笑った。
「なんでなんでしょうね……メンバーは大事で、それはウイもトワも……ユエも変わらないのに。でも二人に対してのとは違う……ユエにはもっと踏み込んでいきたいんです」
(ん?)
微笑みながらソウの語りを聞いていたハクトの顔が一瞬固まった。
(そういえば、蒼って芸能生活長いけど、一度も浮いた話を聞いたことなかったなー。本人からも恋愛話を聞いたことがない……けど? これは? まるで?)
「でも、俺からは聞くことはできない……ユエが心を開いてくれないと……」
「そうだな」
あらかた語りたいことは語ったと感じ、ハクトは口を開いた。席を移動してソウの隣に座る。
「でも、俺は、少しずつユエはお前に心を開いてると思うよ」
「え? そうですか……?」
「まぁ、今日は飲みなよ」
そう言って、ソウの空いたお猪口に酒を満たした。
* *
(あーやっちまったなー)
気がつくと夜が明けていた。
二人とも炬燵で寝落ちしていた。
(泊まってくるって言わなかったな。そんなつもりはなかったから当然なんだけど。ユエ、心配してるかな)
時刻は午前6時を回っていた。よく寝ているハクトを炬燵に残したまま、ハクトの部屋を出た。
(まぁ……ユエが気にしているとは思えないんだけど)
そう思うと、正月三日の早朝の寒さが余計身に染みた。
「ただいま」
リビングに入りながら、誰に言うともなしに小さく口にする。
当然返事が返ってくることはないと思っていた。
それなのに。
「お帰り」
返事が返ってきて、思わずびくっと身体が震える。
毛布をかけたユエがソファに座っていた。
「ユエ……おはよう。早いね。ごめん、昨日ハクトさんちに」
「そう。帰ってこないから心配した……おやすみ」
「え? あ? おやすみ?」
ゆらりと立ち上がったユエは、毛布をずるずると引きずって自室に引っ込んだ。
「え?」
まだ酔いが残ったままの頭で考える。
(俺のこと……待ってたのか?)
『少しずつユエはお前に心を開いている』
そんなハクトの言葉が脳裏に浮かんだ。
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