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一月五日。
BLACK ALICEは二周年ライブに向けて始動。
しかし、ソウはだいぶ前から頭を悩ませていた。ここがリーダーかつプロデューサーの腕の見せどころで、ファンの期待には応えなければならない。
頭の中では様々な案が浮かび、消えていく。
目玉の一つは決めている。
お約束で行われるアンコールで披露する新曲だ。
「新曲かぁ〜」
しばらくBLACK ALICE専用となる十三階の一番奥のレッスン場でソウは深く息を吐いた。
これもまたどんな曲にするか頭を悩ませているが、大まかには形にしている。
パソコンに打ち込みながら。
「なんか、もうちょい。いつもと違うような……」
「あけおめ〜」
ウイが賑やかに入ってきた。彼一人でしんと静まり返っていた部屋が華やぐ。
「あけおめ」
部屋の隅に休憩、会議用に設置されたテーブルとイス。ウイはそこに座っているソウに近づいた。
「なんか、正月から辛気臭い顔」
上から眺め、頬の肉を摘んで軽く引っ張る。
「正月はもう終わった」
「いや〜十五日までは正月でしょー」
ガハハと綺麗な顔で豪快に笑う。さすがグループのムードメーカーだ。ソウはほっと肩の力が抜けたような気がした。うーんと伸びをして一休みすることにする。
「どうぞ」
とテーブルの上に人数分の缶コーヒーが置かれた。メンバー四人にハクトの分で五本だ。派手でがさつにも見えがちだが、気配りができる男だった。
(そういえば……ウイの素顔って見たことないような気が……初めて会った時は女装でバッチリメイクしてたし……)
無理に関わろうとかそういうことではないのだが、メンバー同士もう少し関わってもいいのでは、とこの間ハクトと話した後に思うようにもなった。
(とりあえず、メンバー全員の素顔を知りたいとか?)
「やだーっそんなに見つめないで、照れちゃう〜」
大袈裟に言って両手で顔を隠す大振りなリアクション。
「オレに惚れちゃダメだよ」
語尾にハートマークがついてそうなトーンで言い、ソウの鼻先をつんつんと触った。
ソウはにこやかに笑う。
「メンバーとしては、惚れてるよ」
「だよねー」
『これは一本取られましたな』みたいな感じで、あははと笑った。
「ソウにはユエがいるもんね」
「え?」
驚いてウイの顔を見返そうとしたら、当の本人はさらーっと言い流した感じで、もう別なところを見ていた。
今BLACK ALICE専用に使用している部屋には楽器がセッティングされている。そっちに顔を向けていた。
「トワと、ユエ……もいなのかな?」
「ユエは一緒に来ていて、今飲み物買いに行ってる。トワはまだだな」
「そっかー」
退廃的かつ耽美なハードロックというのがBLACK ALICEのコンセプトだが、もちろん普段からそういうわけではなく、なんとなく穏やかな空気が二人の間に流れていた。
が、一瞬後に外の騒ぎに掻き消された。
ウイがドアを開けたまま入ってきていたので、静かな廊下に響く声がよく聞こえてくる。
「なんか、廊下騒がしいな」
「だね。ん? ひょっとして、トワ? なんか大声で」
二人は顔を見合わせた。
「珍しいな、トワがあんな大声で」
メンバー一 無表情で無口な男の、演奏時以外で聞いたことのない音量だ。
「今日、他にどこか使ってたか?」
ソウが眉間に微かな皺を寄せて立ち上がる。先にドアの向こうに行ったウイを追った。
長い廊下の中程に自動販売機がある。
騒ぎはその前で起こっていた。
ソウとウイはそこへと小走りに向かって行く。
そこにいるのは、声の主のトワ、トワの後ろにユエ。それから、彼らに背を向けて顔がわからない誰か。
(オレンジの髪。あれは……橙也?)
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