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「っんなっわけねぇだろっ。でたらめ言うなっ」  彼らのいる場所まであと数歩。  トワは見たことがないような険しい顔をしている。今にも殴りそうな勢いだ。 「でたらめじゃないっ。俺は『彼』のことを知ってるんだっ……! ユエは」  そして、この声は明らかになないろの現リーダー橙也の声だ。  ソウの知っている橙也は穏やかな人間で、こんな喧嘩腰な言い方はしない。 (ユエが? なんだって?!)   橙也は桜ノ森スターズ・オン・ステージのリハーサルの時にもユエに何か話しかけていた。そして、ユエは倒れかけた。 (それに……ステージ以外でも二人が話しているのを見た。この二人はやはり研究生仲間以外になにか……)  気にはなったが今はそんなことを考えている場合ではない。 「何騒いでるんだ」 「はい、ストップだよ〜」  ソウとウイの言葉が同時に飛んだ。そして、ウイは素早く間に入り込み、トワの手を握って止めた。トワの右手は今にも橙也を殴りそうに拳を固く握られていた。   桜ノ森スターズは割と上下関係は厳しい。なないろは長年トップを走ってきた、BLACK ALICEはまだ二年経っていない。それに年齢的にも橙也の方がトワより年長者だ。もしトワが研究生上がりなら、こんな騒動は起こさないだろう。  しかし、トワは違うのだ。BLACK ALICEに加入するために事務所に入ってきた。暗黙の了解的なしきたりは、彼には関係ないのだ。   「どうした橙也」  ソウは橙也の肩にぽんっと手を置いた。橙也の身体がびくっと震えたのがその手に伝わってきた。 「ソウさん……」  横に並んだソウの顔を見る。 「あの……」  口を何度も開いたり閉じたりしたが、結局最後はぎゅっと唇を引き結んで下を向いた。 「なになに、どうしたの?」  鼻に抜けるような声が彼らの後ろから聞こえてきた。 「橙也さん、どうしたんです? あれ? BLACK ALICE?」  気づけば、近くの部屋のドアが開け放たれていて、中から髪色の賑やかな面々が次から次へと出てくる。 「緋色(ひいろ)紫曜(しよう)。なないろも今日使っていたのか」 「ソウさん。何? 何か揉め事?」  なないろの緋色、紫曜、そして橙也は、ソウがなないろにいた時からメンバーで、彼らは今でもソウ――なないろの『青』を尊敬している。 「いや、何でもないよ」  何があったのかはわからないが、たぶん自分が『知りたいこと』に関係することだろう。しかしここでぶちまけてもらうのは困ると判断して、幕を引くことにした。  橙也を見ると彼もそう思っているようで、 「なんでもないよ」  と自分のメンバーに向かって笑いかける。  緋色と紫曜の肩を押してドアの開いた部屋に向かっていく。ドアの辺りで留まっていた他のメンバーごと部屋の中に押し込めると、振り返ってソウを見た。 「ソウさん、すみませんでした」  丁寧に頭を下げ中に引っ込んだ。  その姿はもうソウの知っている橙也だった。  あとに残されたのはBLACK ALICEのメンバーのみ。  ユエはトワの後ろから離れ、つつっとソウのほうに歩いていく。彼の背中に頭がくっつきそうなほど至近距離に立った。  ユエの表情がホッとしたように変わった。それを見ていたのは、ウイと、そして彼を庇ったトワだった。 「大丈夫か、ユエ」  ソウがユエの顔を心配そうに覗き込んだ時にはもう表情を失くしていた。ただこくんと首だけを動かした。 「ちっ」  と小さくトワが舌打ちをしたのを傍にいたウイだけが聞いた。 「彼奴、逃げやがって」  低く毒づくと掌で頭を(はた)かれた。 「いてっ」 「バカモノっ。あんなギャラリー多いところで話せることじゃないんじゃないかっ」 「ちっ」  ウイは時々トワに対して兄貴風を吹かすことがある。実際ウイはトワより四歳年上なのだが。  ユエの肩を抱いて歩くソウ。その後ろを気まずい雰囲気でウイとトワがついて行く。 (おいおい、最初の舌打ち、橙也にじゃなくてソウに向かってしたんじゃねぇのか)  ウイは隣を歩くひょろっと背の高い男の顔をちらっと見た。  

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