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 全員部屋の中に入るときっちりと扉を閉めた。これから話すことが漏れたら困る重要案件だった時のためだ。  ソウは先程作業をしていた場所に座り、ウイはその横に立った。ユエは皆から少し離れ、ナチュラルなオーク材感を出したリノリウムの床の上に、壁に背をつけて座った。  トワは部屋に入るなり、背負っていたベースをケースから出し、しばらく爪弾いていた。ウイにはそれが気持ちを落ち着かせているように見えた。 (トワのこういうとこあまり見ないな……あ、でもないか、ユエが絡む時は意外と……)   少しつまらない気持ちになったが、もちろん顔には出さない。 「トワ、いったい何があったんだ?」  トワが音を鳴らすのをやめ、ベースをスタンドに立てかけたのを見計らって、ソウが口火を切った。  ユエ本人に訊くべきだろうが、到底話すようには思えなかった。 「……俺が話せることなんてたいしたことじゃない」  ボソッと答える。 『――来栖結だろ』 『…………』 『黙ってないでなんとか言いなよ』 『…………』 『人殺しておいてよく戻って来れたね』 『おいっ何やってんだ』  『トワ……』 『離せよっ』 『BLACK ALICEのトワか――きみのとこのボーカルは、来栖結は人殺しだ……っ!』 『っんなっわけねぇだろっ。でたらめ言うなっ』 「彼奴がユエの胸ぐら掴んでたから、間に入った。彼奴、二度もユエのこと人殺しだなんて言いやがって」  ちっと今日何度目かの舌打ちをする。 (……やっぱり橙也は何か知ってるんだな。それでユエを脅して? いや、橙也はそんな人間じゃ……)  確信ではないことは口にはできない。トワに訊いておきながら、何も言えなかった。 「ってか、『くるすゆい』ってユエのことなのか?」  今さらのように口の中で唱える。  彼は、いや彼らソウ以外のメンバーは、お互いの本名も知らない。メンバーとして集められた時から、『ソウ』『ユエ』『ウイ』『トワ』なのだ。知りたければお互いに自己紹介し合えばいいのだが、誰もそうしなかった。 「そうだよ」  今まで黙っていたユエがゆらりと立ち上がって、こちらを向いていた。 「おれは……人殺しなんだ」  声は平坦。  白く塗った肌に、グレイのカラコンをした瞳。その顔には、無機質な物のように感情がまったく現れていなかった。  ピシッとその場の空間が凍りついたような気がした。 「ユエ……それは、いったいどういう……」  ソウがそう言いかけたところでストップがかかった。 「あ、あのさー。今日のところはもうお開きにしない? 全員揃ったばっかだけど。今日はもう練習どころじゃないっていうか」  さすがのウイもこの場の雰囲気にテンションを上げることはできず、声はいつも通り明るくしようとしているようだが、どこか弱々しい。 「ウイ」 「……この後はさ、ソウとユエで話しなよ。そのほうがいいって」  ソウの耳元で早口で言う。 「……わかった」  少し考える素振りを見せてからそう答える。 「来てもらってすまないが、今日はこれで解散で。明日また集まろう」  それには誰も否を唱えなかった。 * *    帰宅途中も帰宅してからもお互い無言だった。  二人で話せと言われても、どこから話し出せばいいのか頭を悩ませる。  ユエは自室に引っ込んでしまった。  ソウはウォーターサーバーで水を入れ、疲れたようにダイニングの椅子に座った。  ごくごくと一気に水を飲む。 (さて、どうしたものか)  しばらく考え込んでいたが、 (とりあえず、聞いてみるか――答えは返ってこなくても)  そう結論を出し、立ち上がった。

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