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「ユエ、ちょっといいかな」
軽くノックをして声をかける。
返事はなかったが、細くドアを開けて中を覗く。ぐるっと室内を見わたすと、ベッドの寝具がこんもりと盛り上がっている。どうやらユエはベッドに潜り込んでいるようだ。
何も答えない時は入ってもいいということだ。本気でだめな場合は「ダメ」と一言言う。それに寝起きのよくないユエを起こすのはいつもソウの役割で、自然他人の部屋に入る抵抗感も薄くなっている。
ドアを大きく開き、部屋に踏み込む。ベッドの端に腰を下ろした。
「ユエ……」
頭だけが少し見えていて、なんだか撫でてみたい衝動に駆られる。
指先で触れる。ふわりと柔らかな髪だ。少し触れたら衝動が押さえ切れなくなり、指先から掌に変わる。子どもの頭を撫でるみたいに撫でているのに、なぜだか酷く心臓が高鳴った。
「ソウ……」
ユエがもぞっと顔を出すと、ソウは慌てて手を離した。だが、気づかないわけがなく、
「ごめん」
と謝った。
「いいよ、ソウに撫でられたら安心する」
到底そう思っていないようなぼんやりとした表情だが、お世辞も社交辞令も言わないユエの、それは本心なのだろう。
これまでユエがソウに対してそんなふうに言ったことはなかった。
『ユエは少しずつお前に心を開いている』
またハクトの言葉を思い出した。
そして、今日のこと。
(そういえばあの時も俺の傍に……)
トワの背に庇われていたユエが自分にぴたっと寄り添ってきた。
(あれも……その現れ……?)
ユエはもうすでに化粧も落とし、カラーコンタクトも外していた。素顔のユエは少し幼く見える。
その顔で見られたら。
(俺のほうはドキドキするよ)
しかし、ときめいている場合ではなかった。
(さて、何から話す?)
「ユエ、もし、話したくなければ話さなくてもいい」
そう前置きした。
ユエはもぞもぞと動いて上掛けから這い出てくる。ベッドの上に座り、下半身は上掛けに入れたまま。上掛けが高く盛り上がっているところから、膝を立てているのがわかる。手はその上に乗せていた。
返事はないが話を聞く気持ちはあるようだ。
「……橙也は……どういう知り合いだったんだ?……この間は研究生の時に一緒にレッスンを受けていただけだって言ってたけど」
かなり遠回しな質問かもしれない。しかし、いきなり、橙也が『人殺し』だって言っていたらしいがどういうことだ? とはさすがにズバリと聞くことはできない。
「……彼とは本当にただの研究生仲間で特別親しかったわけじゃないんだ」
ユエは静かに答えた。
「そう……なのか」
この間は少し苛ついたように見えたので、本当は何かあるのではないかと思った。しかしそれはどうやら思い違いのようだ。
「……おれはね」
ユエはそう一言つけ加えた。
「でも、翼はもうちょっと仲良かったみたいだ。おれがあとからレッスン場に行くと、よく話しているのを見かけた」
「翼……って、ユエ……いや、結がデビューする予定だったユニットの相方……だろ?」
『翼』の話は聞きたかった。でも直接聞くにはデリケートな問題で、ユエの方から名前を出してきたので便乗することにした。
「よく知ってるね? なないろのリーダーさんは研究生にも気を配るの?」
微かな笑みを浮かべた。最初に見かけた時以来、こんな笑みすら見たことがなく、思いの外嬉しい気持ちが湧いてくる。
「いや、ハクトさんが知ってた」
「そうなんだ? cross っていうユニット名なんだ。デビュー前だけどもう活動してた。おれが『ユウ』、翼が『ヨク』。それがユニットでのおれたちの名前だった」
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