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 ユエがくしゃっと笑顔を見せた。  それが眩しくて一瞬目を瞑ってしまう。  デビューできなかったユニットのことを語るユエの顔が、十三歳の頃の笑顔と被ったような気がした。 (もう少し、踏み込んでもいいだろうか。そうしたら、この笑顔は)  ユエから見えない場所で、何かを決心するように片手をぎゅっと握る。 「プロジェクトが頓挫したのは、翼くんの体調が悪くなったからだと聞いた。彼はその……」  言い淀む。 「……十二月三十一日、あの日お参りしたお墓は……その……」  ユエの気持ちを思えば、はっきりと口に出せなかった。それにもしかしたらではないかもしれないのだ。  ユエの笑顔が一瞬にして消えた。  それが――答えなのだろう。 「……相方の来栖翼くんは……亡くなったんだね……? ユエの……従兄弟だって聞いたけど……」  ユエはこくんと頷いた。 「だから、ユエはSAKUプロを辞めたんだ……?」 『人殺し』呼ばわりについてはまだ触れない。無理矢理にではなく、少しずつユエの口から聞けたらいいと思った。  しかし。  ユエの大きく見開かれた瞳に涙が溜まり始め、もうここまでなのだと感じた。 「ユエ、ごめん。嫌だったらもう話さなくていい」  「ソウ……もう少し待って……ちゃんと話すから」  ユエが縋りつくようにソウの両腕を掴む。  涙がぽろぽろと零れて落ちてくる。 「ユエ」  少しずつユエが自分に心を開いてくれているのが伝わってくる。  ふいに、愛おしさがこみ上げてきた。  両掌でその頬に触れ、唇でそっと彼の唇を覆った。  それはほんの一瞬の出来事。 「あ……」  目の前の顔が驚きに変わってから、自分のしたことに気づく。 「ごめん、俺、なにやって……」 「ごめん」もう一度謝ってからソウは部屋を出ていった。 (なにやってんだ、俺)  ソウはダイニングには戻らず自室に入った。  自分のしたことが信じられなかった。ベッドにダイブして顔を伏せ、頭を抱える。 (でも……これって、きっとそうなんだよな……)  溢れ出てくるような想い。  我知らず動いた身体。 (ユエのことを知りたかったのも。他のメンバーとは違って、深く踏み込みたかったのも)  上月蒼は、サクラ・メディア・ホールディングスの創設した桜宮(さくらのみや)家と縁続きであり、子どもの頃から桜ノ森スターズの事務所に出入りしていた。  自分がスターになりたいというわけではないが、芸能界というものに興味があった。  十歳前にしてすでにイケメンになる要素を持っていて、幼い頃から様々な習い事をやらされてきた彼は、まだ創設して数年のSAKUプロの社長にとっては逸材であった。  蒼が研究生として入所した時にはもうすでに彼を中心としたプロジェクトは発動されていた。  それが『なないろ』だ。  彼は『なないろ』で九年間走り続けてきた。いったんゼロに戻り、そして、また走り出した。  恋をしている間もなかった。  改めて過去を振り返ってみた。 (そうか……俺……今まで誰かを好きになったことなんてなかったかも……)   やっと自覚する。 (俺、ユエに恋をしてるのか?)  頭の中で改めて言葉にしてみて、何やらむず痒いやら恥ずかしいやらで、顔が熱くなる。 (俺、もうすぐ三十路だよな。この年齢(とし)で初恋って……)  しかし、この恋は前途多難だ。何しろ相手は男で、しかも、先走った行動に出てしまった。 (キスするとか……。ユエがまた心閉ざしてしまったら……)  やっと心を開き始めてきたというのに。  下手したらBLACK ALICEはボーカルを失うんじゃないかと、後悔しかなかった。  

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