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「ハクトさん」  こんなに慌てているハクトを見るのは珍しいと、微かに驚く。それとともに妙な胸騒ぎも感じた。 「どうしたの? ハクトさん」  今までトワと一悶着起こしていたウイが、ころっと表情を変えて近づいてくる。ベースを手にしたトワが一拍おいてついてくる。いや、別について行っているわけではなく、行き先が一緒なのでそう感じるだけなのだが。  ユエだけが相変わらずぼんやりと床に座っていた。 「ちょっとこれを見てくれ」  彼はスマホを開いたまま駆け込んできていた。  ソウとウイが頭を突き合わせるようにして覗き込む。 「え……っ、これって」  二人は同時に呟き、顔を見合わせてからハクトの顔を見た。 「週刊『スクープ』のデジタル増刊の記事だ」 「週刊『スクープ』って。ああ、半でっちあげの三、いや十流くらいの週刊誌だ」  虫けらを見るような目でそれを眺めるウイの後ろでトワがボソッと突っ込む。 「十流ってそんなのあんのか」  後ろから覗き込もうとしているのを、 「おまえは見ないほうがいいんじゃないかな」  と引き攣った笑顔でウイが言った。 「なんで」 『某人気ロックバンドのボーカルは人を殺したか?!』  ウイが引き止めたにも拘らず覗き込んだトワの目に映ったのはそんな見出しと、どこからか転載してきたような不鮮明な写真。  しかし見る人が見ればわかる、BLACK ALICEのライブ時の写真だ。 『素性を明かさない某人気ロックバンド。そのボーカルY氏は過去にユニットを組んでいたK氏を死に追いやったのではないかと言われている。Y氏は元々身体が弱く芸能活動には難があった。彼の体調が悪いことをY氏は知っていながら、雨の中を無理矢理野外イベントに参加させた。そして、K氏は倒れ、その日を境に事務所を退所したという……』  というような記事がつらつらと書かれ、最後は。 『素性を明かさない他メンバーにも後ろ暗いところがあるのではないだろうか。さて、真相はいかに』  そう結ばれていた。 「後ろ暗いとこ? 誰にでもあんじゃないの。そういうの」  ウイは激しく憤慨したが、背後に言葉もない怒りの圧を感じていた。 (うひょ〜トワたん、めっちゃ怒ってますなー。だから見ないほうがいいって言ってるのに) 「この記事書いたのは」 (あー静かに(いか)ってるヤツもう一人いたわー)  ソウの声を聞いてぶるっと震え上がった。 「『正直(しょうじき)太郎(たろう)』という自称フリーのジャーナリストで、紙誌のほうにもたまに記事を載せてる。デジタルは不定期で紙にも載せられないものが上がってる感じだ」  そう答えたのはハクト。 「正直太郎? うへ〜胡散臭い名前。雑誌といっしょじゃん」  そう言ったウイの顔はゴミでも見るかのようだ。  皆知っている。『週刊スクープ』は芸能人や有名人のスキャンダルを記事にしているが、かなり信憑性が低いことを。  しかしそこまで楽観はできない。 「社長には? 誰も鵜呑みにしないとわかっていても、ここに名前が出たのが問題だ。いや、名前は出てないけど、わかる奴にはわかるだろう」 「ああ、これ見つけたの社長だから。すぐに何らかの処置はするだろう」 「でも、一度出ちゃったものは……」  ネット時代は恐ろしい。一度でも出てしまったら完全に消し去るのは困難だ。 「あのさ」  ウイはまた別なことを考えていた。 『人殺し』というワードで浮かんできたこと。 「これってあの時の」  そして、それは他の三人の頭にも浮かんだ。  ソウは他の二人よりも事情を知っているので実はすぐに察していた。 「ああ、橙也の言ってた……」 「彼奴かっ彼奴なのかっ」  そう口にしてしまったのはトワ。もう我慢し切れないというように言い放つ。 「え? 橙也って?」  ハクトだけが知らない。 「ハクトさんにはあとでお話します。俺、ちょっと橙也に会ってきます!」  ソウが素早く身を翻そうとしたところへか細い声が聞こえた。  記事のことに夢中になり、皆一瞬本人の存在を忘れていた。 「ソウ……」  ユエがいつの間にかトワの後ろに立っていた。  顔が紙のように白く、身体が微かに震えていた。  

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