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エレベーターが九階に止まった。
ソウとユエが降りるとエレベーターの扉はハクトを乗せたまま閉じた。
橙也はエレベーター横の壁に項垂れたまま寄りかかっていた。
「ソウさん……ユエ」
神妙な顔つきをしている。何故呼び出されたのか、察しているのだろう。
「俺……」
橙也が話しだそうとするのをソウが止めた。
「こんなとこでできる話じゃないだろ」
ここは廊下だ。いつ誰が来るかわからない。エレベーターから降りて来るかもしれないし、すぐ傍のドアから飛び出てくるかもしれない。
「ハクトさんが今、会議室の鍵を取りに行ってくれてるから」
ハクトを待つ三人の間を微妙な空気が流れている。
これまでユエといる橙也を何回か目撃していたが、その時のように悪意のある感じはまったく見受けられない。それどころか目も合わせられないような様子だ。
五分程してハクトが戻ってくる。彼が現れると気詰まりな感じが少しだけ緩和されたような気もするが、これから話す案件を考えればそれもほんの一瞬のことだと思える。
会議室はレッスン場と同様大小あり、ハクトが持ってきたのは四〜五人程度が座れるテーブルがある、あまり大きくない部屋だった。
ソウの隣にユエ、向かいに橙也、テーブルの短い辺にハクトが座った。
座ったはいいが、誰もが何から話したらいいのが考えて倦ねているようだ。エレベーター前で話そうとしていた橙也も緊張している様子で口を開かない。
二、三分がやけに長く感じた。
口火を切ったのはハクトだ。例の記事のページを開いて、橙也に見せる。
「これなんだけど……知ってる?」
橙也に驚いた様子はなかった。しかし、喉をごくっと鳴らした。
「知ってます……昨日、友人がリンクを送ってきました」
テーブルの上でぎゅっと自分の手を握り合わせる。
「――橙也が売ったのか?」
次はソウからの直球過ぎる質問だった。声は抑えているが、その視線は厳しい。
「……違います……でも……相談はしました……」
握り合わせている手にはさらに力を込められ、白くなっていく。
ユエはただ表情もなく橙也を見つめ、ハクトはソウに任せて口出ししないことにした。
「誰に?」
「リンクを送ってきた友人に」
「そうか」
ハクトは小さく息を吐いた。
どうやら情報を売ったのは橙也ではなく、その『友人』らしい。
(嘘を言っているとは思えないな……橙也がそんなことをする人間ではないと思ったが……でも、情報は橙也から出たものだ)
次に何を聞くべきか頭の中で考える。
ちらっと横に座っているユエを見たが何を考えているのか掴めない表情だった。今は何も口にするつもりはないように思えた。
「ユエが来栖結だとなんで分かった? なんで『人殺し』だなんて言ったんだ?」
ここまで来たらもう何かを隠すことなど無意味だとでも思ったのだろう。橙也は素直にそれに答え始めた。
「確信はなかったです。ただ最初は鎌をかけていただけで……」
彼はまずそう前置きをした。
「来栖結を……いえ、翼のことを忘れたことはありませんでした。二人のユニットの話がなくなって、翼が事務所を退所して、その数年後には結も退所して……二人のことを誰も覚えていなくても、俺は忘れることができなかったんです。俺は……翼のことが好きで、そして、結のことを恨んでいたから」
橙也以外のその場の人間が微かに息を飲んだ。
橙也は自分の手を見つめながら話を続ける。
「BLACK ALICEが事務所内に見かけるようになって……ユエに結の面影を感じました。最初はただ似ているだけかもしれないと思いましたが、デビュー前にネットでMVが流れるようになって、その歌声を聴いた時にこれは結の歌声だと思ったんです。でも……確実ではない。もし違っていたらと思うと、本人に確かめることもできず……それでも、その考えがずっと頭から離れませんでした」
橙也の声音は物語を語るように平坦で静かだった。でもその表情は苦しげで感情を抑えているのが感じられた。
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