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「オン・ステのリハが始まってミックスで一緒になって頻繁に顔を合わせてたら、気持ちが抑えられなくなって……。一人でいたユエに声をかけた『来栖結なんだよね?』って。ユエは答えなかったけどいつもの無表情が崩れたんだ……俺はやっぱりそうなんだと確信しました。それから俺は会うたびにユエに話しかけました。ミックスリハの時やドームですれ違った時なんかに」
『答えなくてもわかる。きみは来栖翼だ』
『来栖翼を覚えてるか?』
『きみのせいで翼は苦しんだんだ』
『人殺し』
そんな言葉を浴びせ続けた。
「ユエの体調が酷くなっていくのを、俺はざまあみろと思ってました。酷いですよね」
(本来橙也はそんな人間じゃない)
ソウは苦い顔になった。心の中は複雑な気持ちで渦巻いている。
橙也は穏やかで素直で優しい男だ。リーダーとして新人でメンバーになった彼を見てきた。だからそれが彼の元々の性質だと分かるのだ。
(そんな橙也をこれだけ変えてしまう……翼という少年への『想い』は相当のものだろう。橙也は翼を『好き』だとさっき言ってた。その『好き』は友だちに対してではないのかもしれない……)
ちらっと隣に目をやると、ユエは俯いていた。彼が今どんな気持ちでいるのかわからなかった。
「あの……」
橙也がおずおずとソウに向かって言う。
「翼は……本当はどうなったんですか?」
「え?」
ソウとハクトが同時に声を上げた。ユエは口を開けかけたがそのまま閉じた。
「知らないで、言っていたのか?」
「そういう意味ではなかったんです。俺は……退所した後の翼のことを知らない」
それが酷く悔しいことのようにきゅっと眉間に皺を寄せた。
「あの日――あのイベントの日の朝、事務所の入り口で翼に会った。一目見て体調が悪いって分かった。その日のイベントは野外だったし、俺は『今日はやめたほうがいいんじゃないか』と言ったんだ。だけど翼は頷かなかった。それどころか結が来たら体調の悪さも見せず笑顔になった」
橙也は厳しい目でユエを見る。ユエの顔が少し歪んだ。視線を感じているのか、俯いているだけでは避けられないとでもいうように横を向いた。
橙也はユエの様子を窺いながら話を続ける。
「俺は気になってイベントを見に行った。イベントが始まってすぐ雨が降り出して……一旦中断することになった。俺はそれでイベントが中止になればって思ったよ。それなのに少し小降りになった時に再開して……しばらくして……翼は倒れた」
ユエの身体がぶるっと震える。橙也の冷静であろうとする声音がだんだんと昂ぶり、ユエを追いつめていく。
「俺は事務所の身分証明書を見せ、スタッフオンリーのスペースに入り込んだ。二人の控え室になっているバンの傍に寄ると中から結の泣き声が聞こえてきた。翼に必死に謝る声だった……『ごめん、おれのせいで』『おれが無理にやらなきゃ』結はそう言っていた。それで俺はイベントを続けるように言ったんだって。そうなんだろっユエ、いや、結っ」
「……そうだ……おれが翼に続けようと言った……」
初めてユエは震える声で言葉を発した。
橙也はぐっと片手で拳を作る。
「救急車が来て翼が運ばれていくのが見えた。顔は朝とは比べものにならないような土気色で……死んでるんじゃないかとさえ思ったよ」
その時の辛い気持ちが蘇り、橙也の頬を濡らしていく。
「このことは一部で噂になり、後日、翼が退所したことだけが密やかに囁かれていた。その後翼がどうなったのか知らない。でも結はSAKUプロに残った。何度か持ち上がった別ユニットの話も蹴って研究生として。俺は何故だか結が翼を待っているように思えて、彼はまだ生きているんだと安堵していた。でも、結が翼を殺しかけたんだという彼への憎しみはずっと消せなかった。それから三年経って結が退所した時、ひょっとして翼は……」
そこで一回息を呑む。
「……結、翼は本当に……」
「そうだ……翼は、橙也さんが思った通り……。翼はあの日倒れてから地元の病院にずっと入院していて、だんだん弱っていった……そして、五年前の十二月三十一日に……」
その先は口に出して言えなかったが、ここにいるすべての者の脳裏にはある言葉が浮かんでいた。
――『死』という。
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