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「ユエ……翼はもともと身体が弱かったんじゃないのか?」
少し気持ちが落ち着いた後、また静かな声音で問う。
「結がいない時翼は度々胸を押さえて苦しそうにしていた。本当はダンスなんて激しい運動はできないんじゃないかと思えた。俺は言ったんだ『なんでそんなに頑張るんだ?』と。もうやめたほうがいいとさえ言った。でも、翼は『僕と一緒にデビューするのが結の夢なんだって。結の夢を叶えてあげたい』って苦しげに笑ってた」
「……おれは……知らなかった……翼が身体が弱いことなんて……」
ユエが苦しそうに答えた。
「そう? じゃあ、翼は結には知られたくなかったんだな。だとしても、相方の体調も気づけないなんて……」
静かだがふつっとした怒りが見えた。しかしそれも一瞬で、彼はすっと立ち上がった。
「ハクトさん、ソウさん、情報漏れして申し訳ありませんでした」
ハクト、そしてソウに深々と頭を下げた。
「友人……やっぱり同じ頃に研究生やっていた奴なんですが。自分では抱えきれなくて彼に話してしまいました。まさかこんなことになるなんて……」
「まぁ……起きてしまったことはもう仕方ない。今後気をつけて。ただ社長には後で説明を請われると思うよ」
「はい」
橙也は項垂れたまま立ち尽くした。彼の頭にぽんっとソウが手を乗せる。
「お前も傷ついてたんだろうな。ユエに何か言うたびに苦しかったんだろう。お前は優しすぎるから。友だちにそういうことされるとは考えもしなかったんだな」
「俺は……ああいうことは望んではいなかったんです。でも……ユエが結だと確信してから、なんで今さら戻って来たんだとか、翼のことはもう過去のことになってしまったのかとか、いろいろ悔しくなって、少しくらい苦しめばいいと思って……」
ぽんぽんっと二、三度またソウが頭を撫でる。泣いている子どもを慰めるみたいに。
「ユエは……自分を罰したかったんだろ。だから俺の誘いに乗って戻ってきた。だからあんなに体調が悪くなってもミックスリハをやめなかった。俺がやめろと言っても聞かなかったんだ」
項垂れたままの橙也が少し驚きの表情を見せ、ちらっとユエを見た。ユエは悲しそうに顔を歪め、ぎゅっと目を伏せていた。
* *
(橙也の話で当時のことはだいたい掴めたな……後はユエからも話を聞きたいが……)
あの後はさすがに作業を再開することができず、またしても解散となった。
ユエはまた自室に籠り、ソウも自室でパソコンに向かい自分でできる作業を少しやっていたが、捗らずだった。
(まぁ……すぐには無理かな。気長に待とう)
「早いが……今日はもう寝るか」
午後十一時。忙しいソウがこの時間にベッドに入ることはあまりない。しかし今日はいろいろありすぎて心身ともにだいぶ疲れていたのだ。
トントン。
ベッドに腰掛けたところで控えめなノックの音が聞こえた。
(ユエ……?)
ソウの他にはユエしか住んでおらず、ドアの向こうにいるのはユエ以外考えられないのだ。ただ自分からソウの部屋には来たことがなく、やや訝しむ。
ソウがドアを開けるとそこにいたのは、やはりユエだった。パジャマを着ているところから眠ろうとしていたのではないかと推測される。
「どうした、ユエ? 眠れないのか?」
「ソウ……ちょっと話、いい?」
化粧を落とした少し幼い顔はいつもと同じ無表情なのに、ソウを見上げる瞳が何かを訴えている。目と瞼が赤く、泣いていたのかと思わせる。
「いいよ、どうぞ」
中に入るときょろっと瞳だけを動かして室内を見渡した。三年一緒に住んでいるがユエがソウの部屋に入るのは初めてだ。それほど彼は今まで何にも興味を持っていなかったのだろう。
ベッド。その横の小さな丸テーブルには、卓上ライトと飲みかけの水のペットボトル。本棚、パソコンの乗った机。割と殺風景な男の部屋。
ソファというものもないので、ソウは仕方なく彼をベッドに誘 った。
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