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ソウはユエをベッドに座らせ、自分も少し間を空けて腰掛けた。
ユエはすぐに口を開かなかったが、ソウは彼が話し出すのを根気よく待った。
「……翼は先天性の心臓疾患だった。でも、おれはそれを知らなかった。誰もおれにそれを教えてくれなかった」
ユエはそう『来栖翼』のことを語り始めた。
「翼は小一の時東京から近所に越してきた。おれとひと月違いの従兄弟がいることは話に聞いていたけど、それまで一度も会ったことはなかった。ソウも感じたと思うけど、あの辺は過疎化が進んでて子どもも少ない。だから翼は従兄弟というだけでなく、数少ない同じ年の友だちでもあったんだ。ゲーセンもなければゲームもスマホもない。あるのは海と山だけで、おれたちはよく海岸にいた。砂遊びをしたり、ただ海を見ながら話をしたり……」
ユエにとって翼はとても大切な人間で、とても大切な思い出なのだろう。幼い頃の彼らを語るユエの顔はとても愛おしげだ。
ソウは翼の顔を知らない。もちろん彼らの子どもの頃も。知らないのに脳裏に楽しげな彼らが浮かんでくる。
「おれは小さい頃から歌が好きで、童謡から父さんが酔って歌う歌謡曲やら、アニメや特撮物の主題歌なんかをよく海に向かって一人で歌ってた。それくらいしか一人でできることもなかったから。翼と一緒に海に来るようになってからは翼が聞いてくれた。すごいね! 上手いね! って褒めてくれるのがすごく嬉しかった」
『わ! そっくり! 結、アイドルになればいいのに!』
テレビで音楽番組を見るようになり、結はアイドルを真似て歌って踊った。それを見て手を叩きながら翼はいつも褒めてくれた。
最初は恥ずかしがっていた翼も、結と一緒にアイドルの真似事をした。
両方の親たちが、二人は双子みたいによく似ている、と言っていたが本人たちもそう思っていた。そして、本当か嘘か分からないが双子がシンクロすると言われているように、お互いの動きが手に取るように分かるし、翼は結に合わせてハモるのが上手だった。
『おれたち一緒にアイドルになろうよ!』
それがいつしか田舎に住む少年二人の夢となった。
「おれたちが憧れていたアイドルは、SAKUプロのアイドルたちだった。SAKUプロはいつでも研究生を募集していたし、ダメ元で二人で踊っているビデオとエントリーシートを送ったんだ。おれたちは二人とも研究生になることができて、学校も転校することになったんだ。小五の時だ」
当時からユエは周りを引きつけるような歌声をしていたのだろう。
「その時ですら、翼も翼の親も何も言わなかったし、反対もしなかった。ただおれはSAKUプロの研究生用の寮に入ったけど、翼は叔母さんが近くにマンションを借りて暮らしていた。一年経っておれたちが二人でユニットデビューできることが決まったんだ。でも……そうすぐに、というわけにはいかなかった」
ソウはSAKUプロ歴が長い。プロジェクトが発動してすぐにデビューできるユニット、なかなかできないユニット、そして、デビューできないままプロジェクト自体が途中で中止になることもあると知っていた。
理由は様々だ。一番良い時期を狙っていたり、他に売れると見込んだユニットを先にデビューさせたり、と社長と上層部の考えで決まる。
「翼の……」
今まで淡々と経緯を話していたユエが言いにくそうに口籠る。
「力不足が原因だったみたいで……おれに別ユニットでデビューしないかという話も一度あった。でもおれは……翼とじゃないとやりたくなかった」
純粋な子どもらしい考え方だと、ソウは思った。
(もう少し彼が大人だったら……また違った答えを出していたのかも……)
それが来栖翼の死に繋がっているのだと思うと、会ったこともない人間ながら胸が痛んだ。
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