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「SAKUプロではデビュー前から活動は始まっている。おれたちもデビューがいつになるか分からないが、小さなイベントを開催していた。おれは……それでも良かった。二人でやれるなら。何回かやっているうちに来てくれる人も増えて、ファンレターなんかも来てたりして」
ほんの一瞬嬉しそうな笑みを浮かべた。それが当時一度だけ見た彼の顔と重なった。
一度でも彼の歌声を聞いた者ならそれに惹かれることはソウにも実感として分かる。ファンも増えていったのだろう。
「雨で中断したあのイベント、小雨になってもう上がりそうだった。待ってくれている人たちのために続けよう、そう翼に言った。翼は頷いてくれて……でも、無理してたんだな。あの日のイベント、会場はそんなに大きくないけど、今までで一番たくさん来てくれて……おれうかれてたんだな。大事な相方の体調も分からないなんて……ううん、もうずっと前から何も気づいてなかったんだ……」
ユエの顔が悲しげに歪んだ。
「……これは、俺の想像なんだけど……」
ずっと黙って聞いていたソウが遠慮がちに口を開き、話すことの許しを乞うようにユエの顔を見た。ユエが見つめ返してきたのを彼は承諾と捉えた。
「結が翼くんに出会った時、二人はまだ子どもだった。親たちは言っても理解できないだろうとお前に言わなかったし、翼くんもまだ自分の身体のことはちゃんと理解していなかった。彼は大きくなって自分が無理できない身体と分かってきたけど、結と一緒にいたくてそれを隠してきたんじゃないだろうか。彼の親も息子の望みを叶えたかった……皆がお前に隠していた……お前が気づかなくても……仕方ないんじゃないか?」
それはただの想像で真実は分からない。慰めにもならないかもしれないが、少しでもユエの心を軽くしてあげたかった。
「……うん……そうなのかもしれない……あの日翼が倒れて、さすがにもうこれ以上は無理だと思ったのかも。叔母さんは『翼はしばらく無理かもしれないから一旦事務所を辞めさせてもらうね』とおれに言った。あの状況でも叔母さんは、核心には触れなかった。おれは……叔母さんの言った『一旦』という言葉を信じた……ううん、信じたかったんだ」
(だからなのか……)
翼が退社してからの結の行動の意味をソウはなんとなく分かったような気がした。
「おれは他の人とのユニットの話を受けず、ただ研究生としてい続けた。いつか翼が戻ってきた時のために。でも……。翼は都内の大きい病院に入院していて、おれは時間が空くたびに会いに行った。様態は良くなったり悪くなったりを繰り返して、そして……」
その先は口に出すのも嫌だったんだろう。
「おれはSAKUプロにいる意味を失った。ううん、翼が帰って来たときのために……なんて、あんなの……最初からただの自己満足だったんだ、おれが救われたいための」
ぶるっと身体を震わし、ぎゅっと自分の身体を抱きしめた。その指先は自分を罰するかのように強く腕に食い込んでいる。
『自己満足』
そうだったとしても三年間それを続けるのはどんなに辛かったろう。自己満足とともに自分をも傷つけていたに違いない。
ソウはユエの両手を解放させ、また自らを戒めないように握りしめた。
「葬儀がすべて終わった後、叔母さんはおれに言ったんだ」
『結くんのせいなんかじゃないよ。翼は先天性の心疾患で、生まれてから何度も手術をしたの。あまり長く生きられないかもしれないとお医者様から言われてた。少し落ち着いた頃、夫の実家であるここに越してきたの。もともと翼が生まれた後はそうするつもりだったから。東京に住んでいた頃は家から出られず友だちもいなかった。ここに来て結くんと楽しそうにしているあの子を見て私たちは嬉しかった。病気のことをあなたに言わないでほしいと翼に頼まれていたの。私たちは翼の頼みはなんでも聞いてあげたかったのよ』
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