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「橙也さんが……『僕と一緒にデビューするのが結の夢なんだって。結の夢を叶えてあげたい』……翼がそう言ってたって」 「ああ」  橙也の言葉を思い浮かべて頷く。 「あれ、おれもそう思ってた」 「ん?」 「おれと一緒にやっていくのが翼の夢だって」  微かに微笑みながらも、その瞳には涙が浮かんでいる。どこか自虐的な表情だ。 「おれたちは自分の夢ではなく、お互いの夢を叶えると思いながら頑張ってたんだ。おかしいよね……もし、それに気づいていたら、それでおれがちゃんと翼のことを見ていたら、もう無理しなくていいよ、もう帰ろうよって言えたのに。おれは翼がいればそれでいいって」  ぽろぽろと涙が零れて頬を濡らす。 「おれが……翼を殺したんだ。本当はこんなふうに涙を流す資格もない。笑ったり、楽しんだり、普通に生きてちゃいけないんだ。でも死ぬこともできない。死んで楽になるなんてそんなこと、許されない。おれは生きて、そして、苦しまなければ」  ずっとソウが握りしめていたユエの拳は、ソウの手の中で強く握られていて、もしかしたら爪が食い込んでいるのではないかとさえ思った。 「やっぱり俺の誘いに乗ったのは……自分を苦しめるためだったんだな」  橙也に言ったことは憶測でしかなく、今ユエの話を聞いて正解だったのだと確信した。それは正直当たってほしくないものだった。 「おれは高校を転校して地元に帰った。昔の友だちも何人かいたけどおれは彼らと話もしなかったし、向こうも話しかけてきたのは最初だけだった。おれは一人で良かった。友だちと楽しい高校生活なんて送っちゃいけない。放課後はいつも海岸に出て海を見ていた。そこにいると自然と翼のことが思い出されるし、知らないうちに歌を口ずさんでしまう。本当は歌さえ歌ってはいけないのに。そんな時だった。ソウとハクトさんが来たのは」  ユエはたぶん想像もしてなかっただろう。ただ翼のことを考えながら歌っていただけの行為が、近隣で実はかなり有名になっていて、SNSにも上がっていたことを。  情熱を傾けて楽しげに歌っている結はとても弾けるような魅力があった。しかし、悲しみや苦しみを抱えながらそれでも口ずさんでしまう歌は、聞いた者の胸まで苦しくさせるような訴えかけてくるような、そんな感じがした。 「初めは断るつもりだった」 「え? そうなのか?」  初耳だった。自分の記憶では興味なさげにされていたがスムーズに事は運んでいたように思えた。 「おれみたいな人間がSAKUプロに戻っていいのか。それにソウさんが関わっているプロジェクトなら今度は間違いなくデビューまで漕ぎ着けるだろうと。おれは翼以外とデビューなんてしていいものか。おれは苦しかった。でもこの苦しみこそおれへの罰じゃないかと考えたんだ。もしかしたらおれのことを覚えている人間がいて『おまえはひどい人間だ』と言ってくるかもしれない……それこそおれの望むことなんだって思ったんだ」 「……複雑だ……」  つい本音が零れてしまう。ユエが「え?」という顔をしたが、気づかないふりをした。 (俺はユエの歌声がどうしてもほしかった。しかし、それを自虐の手段として使われたのはどうにもやりきれない)  そんな気持ちを暴露すればさらにユエは苦しむかもしれない。 (当時のユエは子どもすぎた、純粋すぎたんだ。これがもしもっと大人になってからだったら、違う逃げ道もあったかもしれない)  ユエはもう二十歳を超えていたが、その気持ちを持ち続けて今まできてしまった。 (俺は狡い大人だからユエの気持ちも行動も完全には理解できない。俺にできることは――)  ソウはある決意をした。 「ユエ、もう、いいんじゃないか」  ソウは彼の両肩に手を置き、力を込めた。  

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