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「お前はもうじゅうぶん苦しんだし、楽しいはずの学生時代も楽しまずに生きてきた。翼くんも許してくれるよ」 「ソウ……」  ソウの熱さを感じて、ユエが驚いたような顔をする。  BLACK ALICEはそれぞれのプライベートに突っ込まない性質の者の集まりだと思っていた。三年一緒にいて、自分の無気力さや夢に魘されるところを見ていてもこれまで何も言ってこなかった。  イレギュラーなことで思うところはあっても、音楽以外のことで口を出してはこないと思っていた。  ユエは彼を見誤っていた。  元来彼はリーダー気質なのだ。面倒見がよく、頼ってきた相手には親身になれる、そういう人間なのだ。  それに加え、今ではユエに対してメンバー以上の感情もある。実はいろいろ言いたくて、深く入り込みたくてうずうずしていたのだ。 「いや、許すとかそういう問題じゃないな。今までのお前や橙也の話を聞いていても、翼くんはそういう人間じゃないだろ。自分のためにずっとユエが苦しむなんて、それこそ翼くんが悲しむんじゃないのか」 「…………そう……かも」  自分の殻に閉じこもっていたユエにはその考えが浮かんでもこなかったのだろう。そして、それを言ってあげる誰かもいなかったのだ。彼が変わってしまったのが、翼を失った悲しみからで、自分を苦しめるための行為だとは彼の親さえ思わなかったのだろう。  ユエは目から鱗、のような呆けた顔をしている。 「俺はお前が笑っている顔を見たい。BLACK ALICEのユエは、今まで通り人形みたいに冷たくて無表情でも、それがQueen(クウィーン)であるユエのコンセプトだから、それでいい。でも生身のユエ、いや来栖結には笑ってほしい」  今までにないソウの熱を感じてユエは戸惑いを覚えた。そして、急に目の前の霧が晴れるような感覚に陥る。 「ソウ」  でもそれを彼自身が処理できなかった。 「俺は、お前を壊すよ。今までのお前を壊す……っ!」  真剣な眼差しにどぎまぎするも、言っている意味は理解できない。   触れ合いは唐突に始まった。  肩に置いていた手をユエの背中に回し、柔らかく抱きしめる。ぽかんと開いたユエの唇を塞いだ。  この前ユエにキスをした時は、ほんの一瞬だった。自分でも知らないうちに身体が動いていた。  ユエへの愛おしさがこみ上げてきて。  今はもう自覚している。  ユエのことが好きなんだと。  歌声に惹かれた。新しいユニットのボーカルに欲しかった。  迎え入れてみれば、とても危うくて庇護欲が掻き立てられた。自分に心を開いてほしい、もっと彼の奥にまで踏み込みたい、そう思うようになっていった。 「ソ……んっ」  ユエの身体は少し強張っていた。こんなふうにされるのは想像もしていなかったのだろう。これまで誰かに抱きしめられたことがあったとは思えない。翼とはあってもたぶん子ども同士のじゃれ合いだ。兄弟みたいなものだ。  ユニットでのライブの時メンバー同士が抱き合う場面もあるが、BLACK ALICEはそれすらもない。  こんなに欲に塗れた抱擁は経験したことがないだろう。しかし、たぶん感じるのだ、ソウの中にある欲望を。だからこんなふうに身体を強張らせている。  反射的に逃げようとする唇をソウは追いかける。何度も唇を塞ぎ吸い上げる。手は身体の強張りを宥めるように背中を撫でる。  そうしているうちにユエの体温が上がってきているように感じた。それとともに身体の強張りも解けていく。  しかし、息のほうが続かなくなり、苦しげにしていることに気づいてようやく唇を離した。  ユエはいきなり大きく息を吸い込んでむせてしまう。ソウは彼の背を何度も擦り落ち着かせてから、はっきりと言葉にした。 「俺はお前が好きだ、メンバーとしてじゃない。来栖結が好きだ」 「ソウ」  

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