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パイル地でクリーム色に薄いピンク色が滲むルームウェア。BLACK ALICEのゴシック衣装や、現場に向かう時の私服とはまったく違う。暑い夏の日でも割ときっちり着ているので、自宅で寛いでいる時には、こういう緩くて可愛いものを着たくなる。
(正直……誰にも見せられない……)
風呂上がりのウイは自室のドレッサーの鏡に向かい、念入りにスキンケアに勤しんでいる。男の一人暮らしだ。洗面所でも事足りるが、ゆっくりじっくり時間をかけて手入れをしたいがためにドレッサーを購入した。
エステにも通い、自分でできるスキンケアの指導もしてもらっている。顔だけでなく、足も脇も永久脱毛でつるつるだ。
「はぁ……」
肌の手入れをしながら、ウイは大きな溜息を吐いた。
「今さら素顔を見せるって? 無理でしょー」
いつも派手にメイクをしている。肌は真っ白、シャドウは濃く広く、ルージュはダーク系。ライブ以外でも常にそんな感じだ。
メイクで隠すのは、素顔が平凡だからというわけではない。
顔はたまご型。さすが、手入れの行き届いたつるっとした白い肌には、シミ一つニキビ一つない。アーモンド型の瞳、長いまつ毛はビューラーの必要もないくらいカールしている。通った鼻筋。唇は理想の厚みで、自然にきゅっと口角が上がっている。
すべてのパーツが理想的な位置に配置されている。
一言で言えば美形。
身体つきはスレンダーで、その顔と相まって男臭さを感じさせない中性的な美人だ。
「素顔なんてもう長いこと見せてないのに。映画だし、ワンチャン薄っすらメイクとかはするのかな? そうだといいな〜」
メイクをしないで素顔を曝け出す。そのことにウイは不安を感じている。
BLACK ALICEのメンバーになる前に組んでいたバンドでも化粧をしていた。今とは違うメイクの仕方で、こちらは完全に女装だった。
別に男の娘というわけではない。
その時の女装も、今のきっちり着込んだ服も、メイクもヘアスタイルもネイルした爪の先に至るまで、これはウイの完全武装の戦闘服なのだ。
そして、軽いノリの話し方も。
本来の自分を見せないための。
これは彼の過去に由来する。
スキンケアを終え、ドレッサーの前からローテーブルに移動する。
ローテーブルの下には触り心地のよいローズピンクのラグ。座椅子にはハート型のクッション。
花柄のカーテンが引かれた窓の傍にあるベッドはピンクと赤のチェックのカバーが掛けられていて、枕周辺には可愛いぬいぐるみが置かれている。
部屋の中を見渡せば綺麗なものと可愛いもので溢れている。
本来の自分でいられるのはこの部屋の中だけだ。
十畳のワンルームマンション。
キッチン、トイレ、風呂場、洗面所。ウォークインクローゼット。玄関からすぐに部屋は見えないタイプ。バルコニーつき。
できるだけ防音効果のある物件を選んだ。
BLACK ALICEのコンセプト上、メンバーはSAKUプロの寮を使用できないという、社長の方針。
ソウは『なないろ』を脱退した後、マンションを購入。ソウが衣食住の面倒をみるという約束でメンバー入りしたユエは、勿論ソウと暮らしている。ウイとトワも都内で物件を探すことになったが、先立つものがないので特別に事務所から資金援助がなされた。今はそれなりに稼いでいるので、給料から天引きされている。
BLACK ALICEのメンバーはお互いがどこに住んでいるのか知らないし、プライベートの交流もなかった。
ウイはテーブルの上にあるペットボトルの水を一口飲み、台本をパラっと捲った。台本の隣には原作本も置いてある。
(さて……問題の部分は映画ではどの程度まで描かれるのか……)
問題部分とは。
素顔を晒すというのも勿論だ。でもそれ以上に問題なのは、二つのカップルのセックスシーンだった。
(トワ相手に演技できるのか、オレ。や、演技なんてもともとできないけど。……本心がバレるんじゃ)
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