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ウイはBLACK ALICEが二次創作されていることを知っていたし、なんなら同人誌も読んだことがある。特に漫画の中にはR18物のかなり際どい作品もある。自分たちの名前を使われている作品を読むのもなんだか背筋がむずむずしてくるような感覚に陥る。
ソウとユエメインのものならまだいい。「あ、すごい〜、かなりやっちゃってるね〜」と笑いながら読むことができる。しかし、自分とトワのセックスシーンともなると恥ずかしすぎて、ちらっと見てはパタンと閉じるのを繰り返す。
それを描いている女子たちはたぶんトワがユエを想っていることに気づいていないのだろう。だから自分と組まされるのが多いのだ。
もちろん攻めはトワ。
ソウ✕ユエほど甘々な話にはならない、ぶっきらぼうな愛情が見え隠れしている、というストーリーが大多数だ。
恥ずかしくはあるが、物語の中だけでもトワに想われているのは少しだけ嬉しい気もする。
(ぜったいないだろうなー、トワがオレのことを好きになるなんて。ほんとっまったく興味なさそうだもんなー)
たまにただのセフレみたいになっている話もあり、
「あー、こっちでもいいかな。一度くらい抱いてくれないかな」
などと台本の中の台詞と同じようなことを口走ってしまう。
ふと、もう一部ホチキスで綴じられている紙の束が目に入る。ウイはそれを手にした。
「スケジュール表か……」
またパラパラとめくり、難しい顔になり、そして困った顔になる。自分の部屋に一人でいるわりに、ウイの表情は忙しく変わっていく。
「一か月のロケ……一か月トワと一緒……」
今はホテルとして使用されている、戦前アメリカ人女性が数人の使用人と暮らしていたという洋館。それが今回ひと月に及ぶロケの現場だ。
写真、それから、見取り図。見取り図にはロケに使われる部屋、俳優やスタッフの部屋割りが印されている。
「なんでトワの向かいに……」
ウイとトワの部屋は向かい合っている。
ツアーなどでは数日同じホテルに泊まることもあるが、基本ホテル内は個人行動だ。もちろん空き時間は今回も個人行動だろう。しかし期間が長すぎる。何かしらの接触があり、自分がボロを出すのではないかという懸念がある。
『黒薔薇の微笑』の中では広い洋館に四、五人しかいなくて部屋も移動し放題、誰にも会わないような日もある、という設定になっていた。
(うらやまし〜。そしたら、空き時間はひたすらトワから逃げるんだけど)
実際はそういうわけにはいかない。ロケに使う場所は立ち入り禁止。人数も多くて部屋割りもすでに決まっているのだ。部屋を変えてくれと申し出るにしても適当な理由が浮かばない。
とりあえず何事もなくロケが終わることを祈るのみであった。
* *
「ただいま……」
狭い玄関で靴を脱ぐ。いつもは背負っているベースをぶつけないように気をつけながら入ってくる。しかし今日は映画関係の仕事のみの為ベースは背負っていなかった。代わりにリュックを背負っている。
外での仕事の後は、一旦全員がハクトの運転でSAKUプロビルに戻る。ソウはユエを乗せて自分の車で、ウイは大抵公共の交通機関かそ
のままハクトにマンションまで送ってもらうかだ。トワの交通手段は大型バイクだ。
皆事務所からそう遠くない場所に住んでいる……はずだ。トワの住むワンルームマンションもバイクで三十分かからない。他のメンバーがどこに住んでいるかはトワは知らないし、興味もなかった。
一人暮らしのトワが自宅に帰り「ただいま」というのは、けしてそういう寂しい癖があるというわけではない。
たたた……っと軽い足音を立てて帰ってきたトワに一目散に出迎える。
「クリス、いい子で待ってたか」
白い小さな頭をトワは大きな手で撫でた。真っ白な毛並みの猫は答えるようにぐるっと喉を鳴らした。
リュックを玄関先にドサッと置いてすぐ横の洗面所で手を洗い、壁を隔てた隣の狭いキッチンに入る。シンク下の収納から餌の袋を出して皿に盛る。それを持って八畳フローリングに移動した。足元ではずっと猫が鳴いている。
「ほら、食べな」
猫が食べ始めると玄関先に置いたリュックを取りに行った。
ウイのマンションのように洒落てもいないこじんまりとした部屋だ。一人暮らしだし、家具もそれほど必要ない。彼のマンションへの条件は、ある程度防音効果があること、セキュリティ設備が整っていること、そしてペット可かどうかだ。
トワがこの猫を拾ったのは二年前。つまり、ここは二年前に猫の為に探したマンションなのだ。
(俺が猫飼ってるなんてメンバーは誰も思わねぇだろうな。ぜったい言えねぇ)
特にウイに知られたら、からかわれるのは目に見えている。
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