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 トワは表情筋がないのではないかと思うくらいに無表情で口数も少ない。他人にあまり興味を示さない。  しかし、ユエのことになるとほんの少しそれが崩れる。それをウイには見透かされているような気が、ずっとしていた。 (へらっとしているが、よく人のことを見てる……)  メンバーのプライベートはよく知らない。誰も自分から話さないし、聞いたりもしない。仕事以外ではメンバー同士の交流はほぼない。一緒に暮らしているユエとソウ以外は。 (果たしてウイとはどういった人間なのか……俺よりはけっこう年上のような気がするが……)  トワは自分がメンバーの中で最年少ではないかと踏んでいる。  メンバーが集まるとユエがソウにべったりなので、必然的にウイがトワの傍にいることが多くなる。というか、やたらウイがトワに構ってくるのだ。そのせいか、以前よりもトワはウイのことに関心を持ち始めていた。 「そういやー」  起き上がって、床に放ってあったリュックを引き寄せる。中から映画の台本を取りだし、ローテーブルの上にドサッと置いた。 「BL……男同士の恋愛とか言ってたな」 『オレとトワがえっちするの』  ウイの言葉が脳裏を掠める。 (俺と? ウイが? えっち?? いったいどんな話なんだ)  彼はまだ原作も読んでいないし、台本もぱらっとも捲っていない。 (ったく、あの社長。よけいな仕事持ってきやがって) 『黒薔薇の微笑』と書かれた分厚い台本の表紙に手をかけるが。 「やっぱ、今日はいい」  そして、またバタンと床に倒れる。クリスが潰されそうになり、ぴきゃーっとすっ飛んでどこかにいってしまった。 (俺はあの作家の取材を受けた時にほとんど何も話さなかった……)  自分のプロフィールめいたことはいっさい話さず、『結』とのことも話していない。彼が話したのは、ソウからも情報が得られるであろう、ソウがトワをスカウトしたという部分だけだった。もちろん、ボーカルが『ユエ』であったことが決め手であったことも話していないし、それはソウでも知らないはずだ。 (あれだけで、どんな話に組み立てられているのか。ま、モデルというだけで実際の俺らとはかんけーない話なんだろうけど)  これがとんでもないストーリーだということは、近い未来に当然知ることとなる。 * *  映画『黒薔薇の微笑』クランク・イン。  出演者、スタッフが続々とロケ地に到着する。 「わぁーすごい、森ン中。こんなとこ本当にあるんだー。原作まんまじゃん」  ウイは走行中の車の窓から顔を出した。  少し前まで人の多い観光地を走っていた、BLACK ALICEの面々を乗せている車は先も見通せないような森の中にいる。 「ウイ〜、危ないから顔そんなに出すなよ。木に引っ掛けるかもしれないだろ」  運転手のハクトが窘める。 「は〜い」 「子どもかっ」  隣でトワがぼそっと言った。 「俺たち生きて帰れないかもな」  ソウがニヤッと笑う。 「フィクションだろ、これ」 「お、さすがに、読みましたか〜台本」  いつも通りへらっと笑うが、心の中は複雑だ。 (トワはあのシーンをどう思ったんだろう)  つい目の前の男の唇に目がいってしまう。が、すぐに逸らしてまた窓のほうを向いた。 (それに……)  心配は他にもあった。 (トワは思い出しただろうか、それとも……)  トワが海辺の町のライブハウスで『結』の話を聞いたバンドメンバー兼店員は、台本同様ウイだったのだ。 (や、あの時の女がオレだって分かるわけないか。オレの女装は完璧だ。でも、台本読んで勘づくってことも……そもそもフィクションだと思ってたら、それも単なる原作者の妄想だって思うかもしれないし……)  堂々巡りをして、頭を抱えた。 「どうした? 頭でも痛いのか?」 (トワがオレの心配を……)  この無口男は最近はなんとなく自分に対して口数が増えたような気がしていた。 「別にー頭なんか痛くないよー」  嬉しさを隠そうとして隠しきれず、結局、にへぇと妙な笑顔を見せる羽目になる。 「きもっ」 「トワたん、ひどっ」

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