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森の中に忽然と現れた洋館。
「おおーっ、これも、っぽいじゃん」
またしても感嘆の声を上げるウイ。
車は開け放たれた門をくぐると、スタッフが駐車場に誘導する。広い芝生の前の石畳に何台かの車が並んでいる。ハクトはそこにバンを横づけした。
「おはようございます。お疲れ様です〜」
メンバーは車から出るとスタッフたちと挨拶を交わす。
「おはようございます。二階の社交室で打ち合わせをしますので、建物の中へ」
「はーい」
門から建物に向かって伸びている石畳をぞろぞろと歩いていく。その間にも何台か車が入ってくるのが見えた。
「あー薔薇はないのかー」
小説の舞台は、薔薇に囲まれた古めかしい洋館だ。しかし、ここは綺麗に手入れされている広々とした芝の庭だった。
「薔薇?」
ウイの独り言をトワが拾って呟いた。
(うひょー。やっぱトワたん最近反応増えてきたよな。ちょっと嬉しい)
むずっと口元が動いてにやけそうになるのをどうにか止める。
(いかんいかん、また、きもっとか言われちゃう)
「ほ・らー。台本の中にも書いてあったでしょ。薔薇に囲まれた洋館だって。この青々とした芝生の部分が本当だったら全部薔薇なんだよ!」
両腕を大きく広げて説明をする。
「トワたんも薔薇の中で演技するんだよ」
「そうだっけ?」
「トワたん、本当に台本読んだ?」
「まぁ……」
(や、きっと、ざっとしか読んでないよね?)
本当に興味ないんだなぁと、彼らしくておかしくなる。
「建物の裏側には薔薇が咲いてる場所あるらしいよ」
と二人の会話を聞いていたハクトがフォローする。
「そこで撮影できる部分はそこで、あとは他の薔薇園での撮影になるみたいだ」
「そうなんだ」
「撮影スケジュールに書いてあった」
(そういやー、部屋割りが気になりすぎてその後目を通してなかったわ)
あはっと笑って誤魔化した。
「わぁ〜素敵〜」
「ほんとー」
「でも、私たちここで死んじゃうのよね〜」
「そうそう」
後ろからキャッキャッとはしゃぐ声が聞こえてくる。
『ツインスター』の朝顔と向日葵だ。ステージ衣装かと思うような色違いのフリフリワンピースを着ている。
「そうなんだー、俺も死んじゃうのよ〜」
二人の背後から頭を出したのは『無限』のヒビキだ。
「ヒビキさん」
双子は同時に名を呼んだ。
「ってか、物語始まった時には死んでるし、台詞なんて叫び声くらい? きみたち、まだ出番も台詞もあるからいいよ〜」
「かわいそ〜」
両側からよしよしと頭を撫でられる。
「なんでヒビキさん、いるんすか〜? SAKURAドームでの撮影だけじゃないんですか?」
ヒビキの出番はこの館ではまったくのゼロである。
「陣中見舞い?」
「陣中見舞いって、まだ撮影始まってませんよ」
「なんつって。今日初日だから全員集合だよ。ついでに差し入れ持ってきた」
「ヒビキ、おつかれさん」
肩を叩いたのはソウ。
「おはようございます、ヒビキさん」
とりあえずな感じで挨拶をするが、ユエはにこりとも笑わない。ソウと仲の良いヒビキを前から若干ライバル視しているようだ。
人数の増した一行は、意匠を凝らした彫りが施された両開きの扉を開けた。
入ってすぐは広々とした吹き抜けの玄関ホール。高い天井にシャンデリア。そして、左右に分かれている廊下も中央の大階段にも臙脂の絨毯が敷き詰められている。
「すごっ、中まで描写通り。こんなとこ探すの大変だったろうなー」
さっきから一人でめちゃめちゃ感動しているウイだった。
「違うよ〜」
あははと笑いながら階段を降りて来たのはカメラマンのSHIUだ。もうすでに仕事中かカメラを首に下げている。
「おはようございます、シウさん」
SAKUプロはもちろん、SAKU・SISもSHIUに撮影依頼することが多く、ここにいる全員が一度は撮影してもらったことがある。
「おはよ〜。もともと臙脂の絨毯じゃなかったんだ、一か月間でいろいろ整えたんだよ」
「へぇ〜」と皆の口から感心したような声が漏れる。
「監督たち、もう上にいるから」
そう促されて大階段を上っていくと壁に肖像画が飾られていた。
「あ」
珍しくユエが声を上げる。
「おおーっ、ユエちんだ」
中世の貴婦人のようなドレスを着た『ユエ』が描かれていた。
『ユエ』によく似た絵が飾られていることは作中何度も出てくるのだ。
「いつのまに」
ユエがまじまじと自分によく似た顔を見る。
「描いたんだー」
「描いたんだねー」
「わー、ユエさん素敵ですね」
などとそれぞれ口にしながら通り過ぎて行った。
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