122 / 135

13

   続いて室内の撮影。  館に入ったユエが長い廊下を歩いていき、一番奥の扉を開ける。  物語では地下室に入るのだが、地下室はないためその後のシーンは別日にスタジオのセットで撮影される。  遠ざかっていくユエの後ろ姿の撮影の後、カメラマンも一緒に動き、アップの撮影をする。  アップの撮影前に一旦ユエの衣装とメイクのチェックをする。それを眺めながら呆然とした様子でウイが言う。 「……ユエ、映画初めてだよねぇ? 確かに歩いているだけなんだけど、それでもテイク2でOKって……」   外での撮影、室内の撮影ともに二度の撮影で監督のOKが出ている。  その問に答えたのはソウだ。 「ユエは元SAKUプロの研究生だから、演技指導も受けてるはずだよ」 「え?」 「ちなみに、ハクトさんも昔SAKUプロのアイドルだった」 「ええっ? ハクトさ……っ」  思わず大声を出しそうなところをソウに口を塞がれた。 「……オレ、今日はもう部屋に戻るわ」  ソウが手を離したところでウイはそう小声で言った。こころなしか肩が落ちている。 「ああ。オレは終わるまでいるよ」  大階段は今使用できないため、撮影場所とは反対に伸びた廊下をとぼとぼと歩いていく。中央の大階段とは別の階段が左右それぞれの端にあるのを、昼間の空き時間に見取り図をじっくり見て確認していた。廊下は真っ暗ではない。壁に点々とオレンジ色の灯りがともっている。蝋燭の炎に見えるがそれを模した電灯だ。  廊下にも絨毯が敷き詰められているので、足音を消してしまう。しかし、背後に人の気配。 「トワたん、撮影見なくてもいいの?」  振り返らなくても誰が後ろにいるかウイには分かっていた。 「べつに」  短い返事が返ってきた。 「はあ〜、まさか、ユエちんが演技指導受けていたなんて。しかも、ハクトさんも昔アイドルやってたとか? 驚きだよ〜、あのハクトさんが〜。そういう情報は先にくれって話だよね」  トワは何も言わないが、ウイは気にせず話し続ける。 「ほんとに初演技なの、オレとトワたんだけじゃん。あ、実はトワたんも昔劇団とかにいたなんて言わないよね?」 「言わねぇよ」  さすがにおかしかったのか、くくっと笑いが漏れた。 (トワたん、笑ってる。めずらし)  ようやく一番端の階段に到着。上がり始めるとトワは横に並んでいた。 「しかし、あんたがそんなに弱気になってるなんて珍しいもん見た」  その言葉に心なしか笑いが混じっている。 「いつもへらへらしていて、本心が分からないのに」  ぎくっと心臓が変な音を立てる。 (オレになんか興味ないと思ってたのに。トワに見抜かれてる? や、当てずっぽうで言っている可能性も)  ここは話題を変えて誤魔化すことにする。 「や、それ、そのまんまトワに返すよ」 「ん? なに?」 「珍しいもん見た。トワが笑うとこ」 「笑ってねぇ」  今までのが都合のよい幻想だったかのように、ぶすっとした表情に戻っていた。  三階まで上がると、廊下を今度は大階段のほうへ向かっていく。  スタッフが気遣ってくれたのか、ウイとトワの部屋は大階段近くだった。 「ねぇねぇ、トワたんの部屋にも天蓋付きベッドとかあるの?」  部屋の前で分かれる間際。  もうすでにいつものように、へらっと笑っている。 「ある」 「わー、トワたんと天蓋付きベッド似合わなすぎる〜」 「まったく、落ち着かねぇ部屋だ」 「だと思った!」  ウイは「また明日!」と言ったがトワは何も言わず自分の部屋に入っていった。扉が閉まりきるまで眺めていたことなど、トワは気づきもしないだろう。 (なんか今日はちょっと嬉しいかも)  そう思いながらウイも自分の部屋に入った。  

ともだちにシェアしよう!