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 撮影二日目。   『現在』のユエが館に迷い込んできた双子に語る『過去』という設定。  ドラムのヒビキがライブ直前のセットの落下で事故死し、BLACK ALICEは活動を休止する。残りのメンバーはユエの親戚筋のこの薔薇の館に身を隠している。  社交室にいるユエのために薔薇を摘んできたソウ。部屋に入るとユエはソファーで眠っており、その周りには楽譜が散らばっている。ソウは悪夢を見て魘されているユエを起こす。  悪夢のこと、ヒビキのことを語る。  BLACK ALICEはもう活動できないというユエ。復活すると慰めるソウ。  そして、ラブシーン。  しかし、ソウはユエの中にユエではないモノがいるような気がすると感じ始める。 「おはようございます」  本日の撮影場所社交室の前で待ち構えていると、メイクと衣装を整えたソウが、監督やスタッフに挨拶をしながらやってくる。その後ろにユエもいた。相変わらず、鶏にくっついているヒヨコのようだ。  すっぴん設定のため、ユエもソウもBBクリームなどのみ。ユエはそれに体調の悪さを感じさせるような細やかなメイクを施されている。  ユエの衣装は白の開襟長袖シャツに薄いブルーのジーンズ。ソウは黒に細い縦ストライプのあるオックスフォードシャツにカーキ色の綿パンツ。アッシュグレイの髪は項で結んでいる。  BLACK ALICEのコンセプトに即し、移動時もダークな雰囲気の服を着ているので、なかなか新鮮に映る。 「ユエちん、あれだと高校生くらいに見えるよね。素顔は想像以上に幼いなぁ〜」  隣に立っているトワに向かって軽口を言うが、返事なし。いつものことだと、ちらっと視線を走らせる。 (あれ?)  昨日の夜の撮影時にユエを見ていた目とは明らかに違う。凝視している。おそらくウイの声は聞こえてないのだろう。  監督と打ち合わせを始めている二人とトワの顔を交互に見る。 (あー……、そっか)  ウイの脳裏にも『海辺のユイ』が思い浮かんだ。ウイもあの頃何度か見かけたことがある。だから、トワが探している人間がすぐに分かったのだ。 (あの頃のユエと同じようなかっこうだ。顔もあの頃とたいして変わらない。思い出しても仕方がない。そして、たぶん……)  ちくんと胸に棘がささったような感覚がする。 (トワが本当に焦がれているのは、あの頃のユエなんだろう……)  それはいつまで経っても変わらない想いのように感じられた。  それ以上何も言えず、ウイはトワから離れた。  ソウとユイの撮影は午前中いっぱいかかった。ウイとトワは室内の隅のほうで見学していた。  このシーンの流れで、次はウイとトワのシーンがある。二人にとっては、初演技、初台詞だ。台詞は長台詞はなく、簡潔で少ない。でもここは表情が大切なのだ。  ユエのことを好きなトワが二人のラブシーンを見てしまう。その時の切ない表情。さらにそんなトワを好きなウイが見せる複雑な表情。この時はまだトワのことが好きだということは、まだ語られておらず匂わせ的なものでしかない。  流れを汲んで演技をするためにも、このシーンの見学は彼らにとっては必須なのだ。 (オレ、うまくできるかな〜)  しかし、ふと思う。 (これって今のオレ、そのものじゃないの?)  もしかしたらできるかもしれない。でも逆に気持ちが高まりすぎたり、隠している気持ちまで出てきてしまうのではないかという不安がある。 (まぁ……あのユエを前にして、トワがオレの気持ちに気づくことなんてないだろうけどね)  昨夜の撮影よりは台詞もある分少し手間取っている。ワンシーン終わるごとに監督から細かな指示が出されている。   確かにここは『過去』での初めてのシーンで、人間関係、未来を示唆する大事なシーンだ。そして、『過去』と『現在』のユエの差も見せなければならない。 (ほんとに、演技指導されてたんだ。いつもぼんやりのユエとは別人だ。やるときゃやるってか?)  そして、いったん小休止し、次はいよいよ問題のシーンだ。 (あれ? トワたんいない)  いつのまにトワがいなくなっていた。  ウイがそろっと部屋を抜けると、大階段を上がっていくトワが見えた。足取りは重く、項垂れている。 (トワたん……これからが大事なとこでは……)  でもトワの気持ちも分かる。  ユエは普段からソウにべったりだ。しかしそれはどちらかといえば、親子兄弟の間柄のように見える。二人が実際ただならぬ仲であることは、トワも分かっているだろう。だけどそれを目の当たりにするようなシーンは、さすが辛いに違いない。  トワが扉の隙間から二人がキスをしているところを覗いてしまうシーンは、これからの撮影とは別にトワ目線で実際に二人にも演技をしてもらうのだ。今見なくても後で見ることにはなる。 (きっと、監督を唸らせるような表情ができるよ、トワ)  彼を労る気持ちが湧き、そんなトワを見なければならない自分のことを憐れんだ。  

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