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そっと唇を重ねるつもりだった。
緊張しすぎてゴツンとぶつかる。唇は重ねるというよりは衝突。そして、ゴツンと音を立てたのは額だった。
「いたっ」
「……下手くそか」
呆れたような声が聞こえてくる。
「キスしたことないとか?」
「あるけど〜」
キスとかそれ以上とか、それなりの経験はしているつもりだ。でもいつもはもっとスマートにこなせていたし、こんなに緊張したのなんてファーストキス以来じゃないだろうか。
「ウイ」
『あんた』じゃなく名前で呼ばれた。そう呼ばれるのはかなりレアで身体が震えた。
トワの顔が近づいてきて、今度こそ本当に唇が重なった。トワがそういう行動を取るとは思わなかったウイは目を開けたままだし、トワもやっぱり目を開けたままだ。
二人とも目を開けたままキスをする。シナリオには何も書いていなかったがたぶんこのシーンはこれで正解なのだ。喧嘩を売るような甘さのないキスシーン、そんな感じだ。
「え? これ違くない?」
めちゃめちゃどきどきしているのに、それを悟られないよう戯けたように言う。
「撮影の時にちゃんとやればいいだろ。続けて」
そう言われて次のシナリオを思い浮かべる。
『ウイ』は過去に一度見たことのあるトワの上腕から胸にかけてあるタトゥーをもう一度見たいと思う。
ウイはおずおずと、トワのTシャツの中に指先を滑り込ませる。
(ほんとはこんなおっかなびっくり! みたいな感じじゃないと思うんだけど!)
もう少し熱を孕んだような感じなのだろうと思うのだが。
色気なくガバっとトワの耳元に顔を寄せる。
『タトゥー、全部見たい……脱がしていい?』
トワがシナリオに従い両腕を上げる。そして、ウイはTシャツを脱がせるために裾に手をかける。
(なんか、めっちゃ背徳的な気分になるのは何故〜〜)
脱がせる手が震える。脱がし終えたシャツはベッドの隅に追いやった。
細いが筋肉質な身体には、上腕から胸にかけて薔薇の蔦のようなタトゥーがあった。
物語上ではある、心臓に咲く真紅の薔薇はないが。それ以外は本物だった。
ストーリー上の『ウイ』と本物のウイの想いがシンクロする。
上腕からのタトゥーを心臓の位置まで指で辿る。
(本当はここに真紅の薔薇のタトゥーを入れたかったんじゃないのか? いや、実際のユエは赤ではなく白か)
その部分に幻の白い薔薇を見て口づける。初めて唇で味わう肌の感触に目眩がしそうだ。
ここにトワの台詞はない。
台詞はないはずだが、頭上から低い声がした。
「驚かないんだな? まるで知っていたみたいに」
ここにそんな台詞があっても不自然じゃない。
ウイは驚いて胸から唇を離し、至近距離で見上げる。しかしトワがどんな表情をしているのかは見えない。見えるのは、喉仏と顎くらいだ。
「トワ、そんな台詞……」
ないよね? と言おうとするが、それにトワの声が被さる。
「続けて」
「あ……うん……」
(トワ? やっぱり覚えて……?)
心をざわつかせながら、もう一度心臓の位置に口づける。
この後原作では血が出るくらい強く噛みつくのだが、演技では軽く噛んで血糊をつけるのだろう。
ウイは軽く肌に歯を立てた。
『このっ』
『トワ』は『ウイ』の髪を引っ張って上を向かせる。『ウイ』は血で濡れた唇で艶然と笑い、『トワ』はその唇を噛みつくように塞いだ。
激しく口づけられてウイは目を白黒させている。
(わぁ〜やめてーやめてー)
好きな男にこんなふうにされたら心臓が壊れそうになるし、身体も少なからず反応してしまう。
もう練習どころの騒ぎではない。
トワに身体を反転させられ、ベッドに沈められた。ウイのルームウェアの上は前開きで、激しく口づけられながらボタンが全部外されていく。
トワの唇は首筋、鎖骨と移動していく。
下に着ているタンクトップをも脱がさられそうになって、ウイはハッとなる。
「ちょっ、ちょっと、待ったー」
待ったといわれてもまったく動きを止めず、くぐもった「なに?」が聞こえてきただけだ。
「や、だって。映画ではここまでしないよね?」
「だから?」
「この先は練習する必要ないじゃん!」
そうなのだ。原作ではこの後二人はセックスをする。しかし、シナリオはトワに反転させられてキスするところで終わって、違う場面に変わるのだ。
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