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トワが上半身裸で頭をガジガジ拭きながら、シャワールームから出てくる。
暗い室内は天蓋付きベッドだけが、電気スタンドのぼんやりとした灯りで白っぽく浮かび上がって見えている。さっきまではもう少し明るかったのだが、何者かが明るさを落としたのだろう。
何者か。
当然ここにいる者はあと一人しかいない。
ウイだ。
トワがカーテンを開くと、ベッドの上に膝を立てて顔を伏せ、ちんまりと座っているウイがいた。トワにシャワーを使うように言われ、情事の痕を落とし、新しいルームウェアに着替えている。
トワがベッドに腰を下ろすと、ウイは顔を伏せたまま、こそっと動いてペットボトルを渡した。先ほどトワが口をつけていた水だ。自分の分も手元にある。
「サンキュ」
トワは受け取ってごくごくっと喉を鳴らした。
二人ともしばらく無言で部屋の中はしんと静まり返っている。
「……なんか悪かったな。俺別に自分の部屋でシャワー使ってもよかったのに。目の前だし」
珍しくトワのほうが先に話しだす。
「何言ってんだ、あんな格好で出ていって誰かに見られでもしたら」
喘ぎ疲れたのか声が掠れている。
(あんな、いかにもやりましたみたいなぁ〜〜)
恥ずかしくてそこまで口にはできない。
「もう二時過ぎてるし、さすがに」
「そんなの分からないじゃん」
ぱっと顔を上げて、また伏せる。もちろんすっぴんのままだし、上気しているせいかどこか艶っぽい。
「――ああっもうっなんでこんなことにっ」
穴を掘って入りたいくらいの絶望感のある声が響いた。
「最後までやってない」
「そうだけどっ」
二人の行為は結局行きつくところまで行きつきはしなかった。お互いの熱を擦り合わせて達して終了だった。
「……ウイは……男と経験あるのか?」
「あ、それ聞いちゃう? あるけどっ」
自棄 気味に答える。あんなことをした後ではいろいろ隠すのも馬鹿らしい。
「ふぅん」
トワは伏せられたウイの横顔をじっと見つめた。何かを探るように。
「ゲイ?」
視線を感じて腕の間からトワの顔をちらっと見る。トワはいつもの無表情で何を考えてこの質問をしているのか分からなかった。
「……ではない。女のコとのほうが多い。ノーマルよりのバイってヤツかな」
トワはまた黙り込んだ。
(引いたのか? 引いたんだろうなー。トワは男と経験ないんだもんな。でも、あんなに上手いんだし、女のコとは経験豊富?)
勝手に考えてズドンと落ち込む。
「なぁ、あれってどこまで真実?」
なんだか前に聞いたことがある言葉だとウイは思った。
(そうだ、トワにカクテルを振る舞った時に)
あの時聞かれたことはもう答えたはずだが。
「アレって? ライブハウスでスタッフやっていたこととか、女装してバンド組んでたとか? それならもう、そうだって言ったじゃん」
ウイの調子がいつも通りに戻ってくる。伏せていた顔も上げて、トワに向かってへらっと笑った。
トワはまだ探るようにウイを見つめている。
「ライブハウスで働いていた経緯とか、なんで女装してバンド組んでたのかとか――裏で便利屋みたいなことを本当にしてたのか、とか」
だいぶ細かに訊いてくる。
原作にはめちゃめちゃ細かくウイの過去について書かれていたが、シナリオにも軽く語る部分はあった。
『ウイ』は由緒正しい家柄の次男で、優秀な兄と弟がいる。この三兄弟の中でウイだけが異質だった。頭はいいが学校はさぼりがち、親の言う通りに生きたくなかったからだ。両親はそんなウイをすでに見放していたが、ウイがゲイだということがわかり病気扱いをする。ウイはそれに耐えかねて家を出る。
流れ着いた先が寂れた町のライブハウス。そこでスタッフをしているうちにバンドに興味を持つ。よく出演しているバンドに入れてもらう。女装をするのは単に受けがいいから。
それでも生活はカツカツで、ライブハウスにくる地元の客相手に便利屋を始めた。それにはいつしかセックスも含まれていく。
本編とは関係がなく、もしかしたら、カットされるかもしれない部分だ。
ひょっとしたら、ウイとトワのラブシーン自体カットされる可能性もあるかもしれない。
「――なぁに、トワたん。もしかして、オレに興味湧いてきたとか〜?」
(ユエと音楽以外に興味がなかったトワが、オレのことをこんなに知りたがるなんて……でも……)
嬉しく思う気持ちもある反面、知られたくないこともあった。
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