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トワはウイから視線を外した。
「俺、あんたのことずっと苦手だった」
唐突にズバリと切り込まれた。気づいてはいたけど、実際口にされれば傷つきもする。それでもウイはへらりと笑った。視線はぎゅっと握った自分の手にあった。
「知ってた」
「――そういうとこ、だぜ」
今度は顎をぐいっと掴まれてトワのほうに向かされる。
「そうやってへらへら笑って。でも、実際は何を考えているのか、分からない」
ぎくっとした。自分には興味もないと思っていたが、どうやら見抜かれていたらしい。
「それでいて見透かすように見てきて――そういうところが苦手だった、っつうか、今も苦手だ」
「う、うん」
なんだか心臓にぐさっと短剣でも刺さったような。トドメを刺さされたような気持ちになる。『黒薔薇の微笑』で出てきた綺麗な装飾をされた古めかしい短剣、あれに刺されたのは『ウイ』ではなく、『トワ』だった。
などと今の状況にはまったく関係のないどうでもいいことを考え、逃避した。
「苦手だけど、今のあんたは嫌いじゃない」
「え?」
落とされて持ち上げられて、一瞬彼が言っていることが分からなかった。
「素顔のあんたは綺麗だと思うし、今日みたいに少し見えた素は――悪くない」
好きとまでは言えない、けど、これがトワの褒め言葉かもしれない。
トワの手が顎から離れた。ウイは再び膝の上で握り合っている自分の手に視線を落とす。
そして、徐に口を開いた。
「……桜野センセイにはオレの生い立ちは話さなかった……」
自分の素を知られたくないと思っていたけど、今なら話してもいいかもしれない。いや、聞いてほしいと思ったのだ。
「だから、由緒正しい家柄の息子でもないし、親に反発してもいないし、ゲイだとバレて汚物のような目で見られたわけでもない。だってゲイじゃないもんな。そこはセンセイの創作だ」
「そうか」
どこまで真実なのか分からなかったが、その辺りのウイの事情は真実ではないかと思っていた。そう思わせる雰囲気が彼から感じられていたからだ。自分の過去も真実ではないのに。
「オレは小学生の頃両親を亡くして児童養護施設で育った。ドラマや小説によくあるような、そこでひどい目に合わされた、とかそういうことはまったくないよ。ただやっぱり子どもが多い分、一般家庭みたいに隅々まで行き渡る愛情は望めないし、寂しくはあった。愛情がほしくてわざと困らせたりする子もいたけどオレはそうはしなかった」
トワはなんとなく想像できた。今のウイを見るにつけ、彼がどうそこで生きてきたか。
「オレは寂しさを笑ってごまかしていた。そして、まわりの子どもや大人が何を考えているのか、何を望んでいるのか、何を望まないのかを観察して生きてきた。本心を隠して、相手の望まない答えに触れないようにしてきた」
トワの考えたことは正解に近かった。ウイのこの本心を見せない性質はその環境で培われたものだったのだ。
(たしかに、あの話のウイの設定もアレだけど、現実も変わらないくらい小説かドラマみたいだな)
世の中にはそういう子どもも少なくはないだろう。しかし自分の周りにはいなかったため、現実味が感じられない。
「オレは高校卒業と同時に施設を出て、居場所や職を転々として、あの町のライブハウスに行きついた。最初は店のスタッフとして働いていたけど、店でよく演奏しにくるバンドの連中と親しくなって楽器を教えてもらっていて、そして仲間に加わった。ライブハウス以降の話は取材でも話したから、その辺は使われてるな」
おかしそうにくすっと笑う。
「女装をしたのは、バンドの連中が面白いんじゃないかと提案したからだ。ほらっ、オレってけっこう可愛いじゃん?」
可愛く笑って、しなを作ってみせる。
「初めてやった時にウケたからそのままのスタイルで続けることにした。メイクをして、女のコの服を着て自分以外の人間になることは、オレの本心を隠すのにちょうどいいと気づいたんだ。自分の家以外ではメイクするようになったのはその時からだ。あの町では女装をしたオレのことはみんな知っていて、知らないのは外から来た人間だけで……」
そこでハッと気づいて口を閉じた。余計なことまで話そうとしてしまっていた。ちらっとトワのほうを見るが、別段何かに気づいた様子もない。ほっとして何食わぬ顔をして話題を変える。
「でも、裏で便利屋の仕事なんかしてないし、もちろんウリもやってないからね」
おどけたようにウィンクをした。
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